なぜ米国の高血圧基準は140/90 mmHgから130/80 mmHgに変わったのか?
“クリニカル・イナーシャ(治療の遅れ・消極性)から、予防重視(早期介入)へのパラダイムシフト”
「高血圧の基準が 140/90 mmHg から 130/80 mmHg に引き下げられた」という話を耳にした方もいるかもしれません。
これは アメリカ心臓協会(AHA)とアメリカ心臓病学会(ACC) がまとめた国際的なガイドラインで採用され、今では世界的な流れになっています。

では、なぜ基準が下がったのでしょうか?
その理由を、わかりやすく解説します。
💡 理由①:130/80mmHgを超えると、脳や心臓の病気が確実に増えることが分かった
100万人以上を追跡した大規模研究(Lancet 2002 など)では、
- 収縮期血圧が 130mmHg を超えるあたりから、脳卒中・心筋梗塞がぐっと増える
- 「安全ゾーン」は 140mmHg ではなく、もっと低いレベル
という事実が判明しました。

どの年代でも血圧が高くなるほど、脳卒中死亡のリスクが連続的に増えることが示されました。
- 血圧 115/75 mmHg から上がるほど、リスクが徐々に増える
- 特別な「安全ライン」はなく、低いほど脳卒中死亡率が低い
脳卒中は血圧に強く影響を受けます。
- 血圧が20/10 mmHg 上がるごとに
→ 脳卒中の死亡リスクは約2倍
→ 心臓の病気(心筋梗塞など)も増える
これは年齢に関係なく見られました。
80歳代でも、血圧をしっかり下げると病気を防げます。
つまり “140までは大丈夫” ではなく“130を超えると危険が上がる” ことが科学的に示されたのです。
💡 理由②:血圧を下げることで得られる効果が非常に大きかった
大規模臨床研究(SPRINTやSTEP試験など)により、
- 血圧目標を 120mmHg台にすると
⇒ 心臓病・脳卒中・死亡などが大きく減る
という結果が得られました。


特に 130〜139 mmHg の“軽度の高血圧”でも、
血圧をもう少し下げるだけで大きな予防効果があることが発見されました。
💡 理由③:「高めの人」を早めに見つけて、生活習慣改善を進めるため
昔の基準(140/90)では、
- 血圧 132/84 mmHg → “正常寄り”
- 血圧 138/89 mmHg → “ほぼ正常”
と扱われてしまい、介入のタイミングを逃すことが多くありました。
しかし現実には、このレベルの人ほど
- 塩分過多
- 運動不足
- 体重増加
- 喫煙・ストレス
- 睡眠不足
など、生活習慣の改善で大きく予後が変わる層です。
そこで、早い段階(130/80)から生活改善をすすめる方針へ世界中がシフトしたのです。
💡 理由④:薬をすぐに増やすという意味ではない
130/80 mmHg で「高血圧」と診断されても、すべての人が薬を飲むわけではありません。
アメリカのガイドラインでも
- リスクが高い人 → 早めに薬+生活改善
- リスクが低い人 → まず生活改善を3〜6か月、改善なければ薬
というように、状況に応じた柔軟な治療が行われます。
💡ポイント:基準が変わったのは “危険ラインの再評価” のため
血圧は以下のようにイメージするとわかりやすいです:
| 血圧の状態 | イメージ |
| 140/90以上 | すでに危険な状態(要治療) |
| 130/80以上 | これ以上放置すると病気が増えるライン(要管理) |
| 120/80未満 | 理想的 |
つまり、**130/80mmHg は「早めに対策を始める境界線」**として位置付けられたのです。
📝 今後どうすればいい?
血圧は “少し高め” の段階で対策するほど効果的です。
次の7つの習慣を心がけると、血圧は自然に下がりやすくなります。
- 塩分を控える(1日6g未満が目標)
- 生野菜(カリウム摂取)を増やす
- 体重管理(特に内臓脂肪の減少)
- 適度な運動(1日30分のウォーキング)
- 禁煙
- 良質な睡眠(未診断の睡眠時無呼吸への対策含む)
- アルコールの飲み過ぎに注意
当然ながら、定期的に医師が診療し合併症の状態を確認、薬を調整し、
脳卒中・心筋梗塞を予防する目的で治療を行います。
🌿 まとめ
- 130/80 mmHg 以上になると病気が増えることが科学的に証明されたため、基準が引き下げられた
- これは「薬を増やすため」ではなく
“病気を減らすための早めの対策”を重視する流れ - 日本でも治療目標は <130/80 に統一され、世界的な考え方に近づいています
(文責:すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)