悪玉コレステロール値はどのくらいなら安心?
答えは→「みんな同じ目標」ではありません。
― 心臓や血管の病気を防ぐための“あなたに合った”管理を ―
健診で良く指摘される悪玉コレステロール(LDLコレステロール)は、「とにかく下げればいい」、あるいは「この程度なら上げなくてもいい」と簡単に判断されがちですが、実はそうではありません。
最近の国際的なガイドラインでは、
その人がどれくらい心臓や血管の病気を起こしやすいか(心血管リスク)に応じて、
下げる目標や治療の強さを変えることが勧められています。
なぜ“人それぞれ”なの?
心筋梗塞や脳卒中の起こりやすさは、人によって大きく違います。
たとえば
- すでに 心筋梗塞や脳卒中を起こしたことがある方
- 糖尿病や腎臓病がある方
- 家族に若くして心臓病になった方がいる
- 悪玉コレステロールが非常に高い体質(遺伝性)の方
こうした方は、同じLDLコレステロール値でも、将来のリスクが高いことが分かっています。
そのため
👉 リスクが高い人ほど、より厳しく下げる必要がある
👉 リスクが低い人は、生活習慣の改善を中心に様子を見る
という考え方が大切になります。
国際ガイドラインが示す「きめ細かな管理」
欧州の心臓・動脈硬化の専門家による最新ガイドラインでは、
次のように整理されています。

● リスクがとても高い方
(心筋梗塞・脳卒中の既往がある、進行した糖尿病や慢性腎臓病がある など)
👉 悪玉コレステロールは 55 mg/dL 未満を目標
👉 食事・運動に加え、お薬(高強度スタチン±エゼチミブ/PCSK9阻害薬)をしっかり使う治療が必要なことが多い
● リスクが高い方
(悪玉コレステロールや血圧が非常に高い、長期糖尿病がある、初期〜中期の慢性腎臓病 など)
👉 70 mg/dL 未満を目標
👉 生活改善+必要に応じて薬物治療(同上)
● リスクが中等度の方
(年齢が上がってきた方、若年糖尿病、軽度の高血圧・脂質異常症がある方など)
👉 LDLコレステロールは 100 mg/dL 未満を目標
👉 生活習慣の改善は必須
👉 下がり方が不十分な場合や、他のリスクが重なる場合は薬物治療を検討
📌 中等度リスクは
「放置してよい段階」ではなく、
将来の心臓病を防ぐための“重要な分岐点”です。
● リスクが低い方
(若く、他に大きな病気や危険因子がない方)
👉 LDLコレステロールは 120 mg/dL 前後以下を目安
👉 食事・運動など生活習慣の改善が基本
👉 定期的な検査で変化を確認していきます
※この段階では、多くの場合すぐに薬は必要ありません

― リスク区分に使われるSCORE2に“プラスして考える大切なポイント” ―
心筋梗塞や脳卒中を防ぐために、
欧州心臓病学会/欧州動脈硬化学会では SCORE2/SCORE2-OP という方法で
「この先10年間に心臓や脳の病気を起こす確率」を計算します。
これは
- 年齢
- 血圧
- コレステロール
- 喫煙の有無
などを使った、とても大切な指標です。
しかし――
👉 この計算だけでは“見えないリスク”がある
ことも分かってきました。
「リスク修飾因子」とは?
リスク修飾因子とは、
計算式には入らないけれど、
心臓や脳の病気を起こしやすくする“体質・背景・環境”のことです。
欧州の最新ガイドラインでは、
SCORE2の結果が同じでも、これらがある人は
「実際のリスクはもっと高いかもしれない」
と考えるよう勧めています。
どんなものが「リスク修飾因子」?
① 遺伝(体質や家族歴)の影響
- 家族に若くして心筋梗塞や脳卒中になった人がいる
(男性55歳未満、女性60歳未満) - 南アジア系など、心臓病リスクが高いとされる民族背景
👉 生まれ持った体質は、数字以上に影響します。
② 生活・社会的な要因
- 強いストレスや心の負担
- 経済的・社会的に不利な状況
- 運動不足
- 肥満
👉 忙しさや環境が、知らないうちに血管に負担をかけます。
③ 病気や体の状態
- 慢性の炎症性疾患(関節リウマチなど)
- 重い精神疾患
- 早く閉経した方
- 妊娠中に高血圧や子癇前症を経験した方
- HIV感染
- 睡眠時無呼吸症候群(いびき・夜間無呼吸)
👉 一見心臓と関係なさそうな病気も、血管の老化を早めることがあります。
④ 血液検査で分かる“隠れたサイン”
- 炎症の指標(hs-CRP)が高い状態が続いている
- Lp(a)[リポ蛋白(a)]という遺伝的コレステロールが高い
👉 特に Lp(a) は
生活習慣では下がりにくい“体質的リスク” とされています。
なぜ、これらを考える必要があるの?
たとえば
SCORE2では「中くらいのリスク」と出た人でも、
Lp(a)が高く、家族に心臓病の人がいて、睡眠時無呼吸がある
場合、
👉 実際には“高リスク”に近い可能性があります。
そのような方を
「計算上は大丈夫だから」と見逃さないために、リスク修飾因子をチェックするのです。

「数値だけ」を見てはいけない理由
同じ LDLコレステロール 120 mg/dL でも、
- 20代で他に病気がない人
- 70代で糖尿病・高血圧があり、家族に心臓病の方がいる人
では、将来の危険度はまったく違います。
だからこそ
「LDLコレステロールはいくつだから大丈夫/危険」
ではなく
「あなたの体質や背景に合った目標はどこか」
を一緒に考えることが重要なのです。
お薬を使う=負け、ではありません
「薬に頼りたくない」と感じる方も多いですが、
リスクが高い方では、お薬(スタチンが基本)によるコレステロール低下が心臓病や血管の病気を防ぐことが科学的に証明されています。
- 生活習慣は すべての人の土台
- お薬は 必要な人に、必要な強さで追加する“安全装置”
と考えてください。
まとめ
悪玉コレステロール管理の大切なポイント
- ✅「みんな同じ目標」ではない
- ✅ リスクの高さに応じて目標も治療も変える
- ✅ 生活習慣+必要に応じた薬物治療(スタチン±エゼチミブ/PCSK9阻害宅)が最も効果的
- ✅ 自分に合った目標値を知ることが、将来の病気予防につながる
当クリニックからのメッセージ
悪玉コレステロールは「数字」だけを見るものではありません。
あなたの体質・病気・生活背景をふまえた“オーダーメイドの管理”で、
心臓や脳の病気を一緒に防いでいきましょう。
(文責:すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)