【NEW】血圧目標、なぜ「より低く」なってきたの?~新しい研究で分かってきたこと~
「血圧は140未満で大丈夫」
以前は、糖尿病のある方ではこのように説明されることが一般的でした。
ところが、最近の大規模な研究によって、
心臓や腎臓の病気になりやすい方では、もう少し低い血圧を目指したほうが、将来の病気を減らせることがわかってきました。

① 2010年:糖尿病の方では「厳しく下げなくてもよい」と考えられていた
2010年に行われた ACCORD-BP研究では、糖尿病のある方を対象に、
- 血圧を 120未満まで下げる治療
- 血圧を 140未満に保つ治療
を比べました。
その結果、
- 脳卒中は少し減った
- しかし 全体として心臓病や死亡ははっきり減らなかった
ため、
👉 「糖尿病では無理に120未満を目指さなくてよい」
👉 「140未満で十分」
という考え方が、長く続きました。
② 2015年:糖尿病がない人では「しっかり下げたほうが良い」と判明
その後、2015年の SPRINT研究では、収縮期血圧130〜180mmHgの心臓病リスクの高い糖尿病のない50歳以上の人を対象に同じ比較が行われました。
その結果、
- 120未満を目指した人の方が
- 心筋梗塞・心不全・死亡が明らかに少ない
ことが示されました。
この研究は、
👉糖尿病のない50歳以上の人では 「血圧は、下げられる人では下げたほうが体を守れる」
という大きな転換点になりました。
③ 最近の研究:糖尿病があっても「リスクが高い人」では効果あり
その後さらに研究が進み、
ESPRIT研究や BPROAD研究といった新しい試験が行われました。
これらの研究では、
- 糖尿病がある人も、ない人も
- 心臓・脳・腎臓の病気になりやすい方
では、
👉 血圧を120未満まで下げた方が、心臓病や脳卒中が少ない
ことがはっきり示されました。
特にBPROAD研究では、
- 糖尿病のある方でも
- 心血管イベントがしっかり減る
ことが確認されました。

BPROAD研究の臨床的意義
- ACCORD試験とは異なり、十分な症例数・イベント発生率を確保
- 中国人糖尿病(脳卒中リスクが高い)集団において、
- 収縮期血圧<120 mmHg の厳格降圧は心血管イベント抑制に有効
- 現行ガイドライン(SBP<130 mmHg推奨)よりも
👉 一歩踏み込んだエビデンスを提供
⚠️ 注意点:
- 白人など他民族への一般化には慎重さが必要
- 厳格降圧時は 低血圧・電解質異常のモニタリング必須
✨まとめ
BPROAD試験は、50歳以上の2型糖尿病をもつ人において 収縮期血圧<120 mmHg を目標とする厳格降圧が、従来の降圧<140 mmHg に比べ心血管イベントを有意に減少させることを示した、糖尿病高血圧管理の転換点となる試験と見なされています。
④ その結果、ガイドラインが変わりました
これらの研究結果を受けて、
アメリカ糖尿病学会(ADA)の最新2026年ガイドラインでは、
心臓や腎臓の病気のリスクが高い糖尿病の方では、
可能であれば血圧120未満を目指すことが勧められる
と明記されました(Recommendation 10.4:推奨レベル最高A)。
「血圧120未満」を目指したほうがよい“高リスク”の方とは?
でも「自分も120未満を目指したほうがいいの?」
と疑問に思われる方も多いと思います。
実は、すべての人が120未満を目指す必要はありません。
以下①〜④にあげるような心臓や腎臓の病気になりやすい“高リスクの方”で、
安全に下げられる場合にすすめられています。
① すでに「心臓・血管の病気」がある方
次のようなご病気がある方は、
将来の再発を防ぐため、血圧をしっかり下げることが大切です。
- 心筋梗塞・狭心症になったことがある
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血)を起こしたことがある
- 足の血管がつまる病気(閉塞性動脈硬化症)がある
👉 上記の何れかに該当する場合、再発予防のため、120未満を目指すメリットが大きい方です。
② 心不全(心臓の働きが弱っている状態)がある方
- 息切れしやすい
- むくみが出やすい
- 「心不全」と言われたことがある
このような方では、
血圧が高いままだと心臓に負担がかかり続けます。
👉 心臓を守るため、やや低めの血圧が望ましいと考えられています。
③ 腎臓の病気がある方(または尿にたんぱく(アルブミン)が出ている方)
- 「腎臓の数値が少し悪い」と言われた
- 尿検査で「たんぱく尿」が出たことがある
腎臓は血圧の影響をとても受けやすい臓器です。
👉 血圧をしっかり下げることで、腎臓の悪化(透析)を遅らせ、
心臓や脳の病気も防ぎやすくなります。
④ 糖尿病による“体のダメージ”が出てきている方
自覚症状がなくても、次のような変化がある方は要注意です。
- 目の病気(網膜症)がある
- 尿にたんぱく(アルブミン)が出ている
👉 体がすでに血管のダメージを受け始めているサイン
👉 血圧をより厳格に管理する意味があります。
⑤ 複数の生活習慣病が重なっている方
次のような項目がいくつも当てはまる方も、高リスクと考えます。
- 年齢が高い(例:50歳以上)
- 糖尿病がある
- 心電図やレントゲン、心エコーで「心肥大」を指摘された
- 悪玉コレステロールが高い
- 喫煙している(または過去にしていた)
- 体重が多め
👉 リスクが重なるほど、血圧管理の重要性がより高まります。
すべての人が120未満を目指すわけではありません
大切なのは、
- 立ちくらみ・ふらつきが出やすい
- 転びやすい
- 血圧を下げると体調が悪くなる
- ご高齢で日常生活に不安がある
方では、無理に下げないことです。
👉 全ての方が「低ければ低いほど良い」わけではありません。
👉 血圧の目標は「その人に合った安全な範囲」で決める
👉 心臓・腎臓を守るメリットと、副作用のバランスが大切
これが、現在の考え方です。
まとめ(院長からの一言)
医学の常識は、時代とともに少しずつ変わっていきます。
以前は「血圧は140未満で十分」と考えられていましたが、
最近の研究から、多くの方では130未満を目標とし、さらに心臓や腎臓の病気になりやすい方では、
もう一段低い120未満の血圧を保つことで、
将来の病気を防げる可能性があることが分かってきました。
ただし、血圧の目標は年齢や体調によって人それぞれです。
あなたにとって最適で、安全な血圧目標を、一緒に考えていきましょう。
(文責:すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)