【NEW】新年の思い~アウトカムを重視した診療が、なぜ日本では評価されにくいのか~
― すぎもと内科・糖尿病内科クリニックの考え方 ―
新しい年を迎えるにあたり、
当クリニックが大切にしている診療の考え方について、少しお話ししたいと思います。
私たちは日々の診療の中で、「検査をしたか」「薬を出したか」ではなく、
その結果として皆さまの健康や生活がどう変わったかを、
何よりも重視したいと考えています。
しかし実は、日本の診療報酬制度では、
こうしたアウトカム(診療の結果)を重視した医療は、必ずしも十分に評価される仕組みにはなっていません。
今回は、その理由と、当クリニックがそれでもアウトカムを重視する理由についてお伝えします。
■ アウトカムとは何か?
アウトカムとは、簡単に言えば
「診療によって得られた“結果”」のことです。
たとえば、
- 血圧を測った
→ 測ったこと自体はアウトカムではありません - 血圧が下がり、めまいや脳卒中のリスクが減った
→ これがアウトカムです
同じように、
- HbA1cを測定した
- 薬を処方した
という行為そのものではなく、
- HbA1cが改善した
- 低血糖なく、安心して生活が送れている
- 入院や合併症を防げている
こうした「実際に良くなった結果」がアウトカムです。
■ 日本の診療報酬は「プロセス評価」が中心
日本の診療報酬制度は、原則として出来高払いです。
つまり、
- 診察した
- 検査をした
- 処方をした
といった「行為の数」が報酬の中心になります。
一方で、
- その治療で本当に血糖や血圧が改善したか
- 合併症や入院を防げたか
- 生活の質が向上したか
といった結果(アウトカム)の良し悪しによって、報酬が大きく変わる仕組みは、ほとんどありません。
■ なぜアウトカム評価が難しいのか?
日本でアウトカム評価が進みにくい理由はいくつかあります。
① 診療を受ける方の背景が一人ひとり異なる
年齢、合併症、生活環境が違うため、
結果だけで医療を評価すると不公平になりやすい。
② 結果が出るまでに時間がかかる
糖尿病や高血圧の合併症予防は、
数年から十年以上かけて効果が現れることも少なくありません。
③ 電子カルテや医療データの標準化が不十分
診療の結果を正確に集め、比較し、評価する基盤が、
韓国や英国など他の国民皆保険の国と比べても、まだ十分とは言えません。
こうした理由から日本では、
アウトカム(結果)よりも、プロセス(やったこと)で評価する制度が長く続いてきました。
■ 結果として起こりうる「制度上の歪み」
この仕組みの中では、
一人の受診者に多くの時間をかけ、
丁寧に説明し、生活を支え、良い結果が得られたとしても、
報酬上の差がほとんどつかないということが起こり得ます。
制度として
「質の低い診療を勧めている」わけではありませんが、
「質の高い診療」が特別に報われやすい仕組みでもない
というのが現実です。
■ それでも当クリニックがアウトカムを重視する理由
すぎもと内科・糖尿病内科クリニックでは、
- 血糖値・血圧・脂質といった数値の改善
- 低血糖や副作用を防げているか
- 日常生活が楽になっているか
- 将来の合併症を減らせているか
を重視した診療を行っています。
これを実践するには、短期的な視点ではなく、
5年、10年と長期的に皆さまの健康を見守る姿勢が不可欠です。
そして、それこそが医療の本質であると考えています。
■ 日本の医療はいま「苦しい転換期」にある
日本の医療は、いままさに転換期にあります。
- 高齢化の進行
- 医療需要の増大
- 物価と賃金の上昇
- 医療人材の疲弊
これまでの
「均一・非効率・安価・大量に提供する医療」
を中心とした体制では、もはや立ち行かなくなりつつあります。
■ だからこそ必要なのは「質に報いる医療」
これから日本が目指すべき方向は明確です。
これまでの
「均一・非効率・安価・大量」医療から脱却し、
- アウトカム(診療の結果)を重視する
- 個別化した質の高い診療を正当に評価する
- 良い結果を出している医療に、より高い診療報酬を与える
そうした体制へと転換していく必要があります。
つまり、
単に「医療費を抑制する」ことを目的とするのではなく、
「価値の高い医療」を社会全体で支える仕組みが求められています。
これは、医療費を無制限に増やすという意味ではありません。
良い結果につながらない医療は減らし、
本当に価値のある医療に資源を集中させる
ということです。
近年、
- 生活習慣病管理料
- 外来データ提出加算
- 医療DXの推進
など、診療の質や結果を可視化しようとする動きも始まっています。
まだ「やっとスタートラインに立った段階」ではありますが、
将来は
「どれだけ良い結果を出せているか」が
正当に評価される時代へと進んでほしいと、私たちは願っています。
日本が遅れている Learning Health System と外来データ提出加算が持つ本当の意味
近年、医療の世界では
Learning Health System(学習する医療システム)
という考え方が注目されています。
これは、
日々の診療データを集めて分析し、その結果をガイドラインや診療の改善に還元する、
いわば
「医療が自ら学び、進化していく仕組み」です。
英国や韓国では、この仕組みがすでに制度として確立していますが、
日本はまだその入口に立ったばかりと言えます。
■ Learning Health System とは何か?
Learning Health System とは、
- 診療データを集める
- 集めたデータを分析する
- 良い診療とは何かを明らかにする
- その結果を
- ガイドライン
- 質指標
- 診療の改善
に反映していく、循環(サイクル)が回る医療システムです。
重要なのは、研究のためだけのデータではなく、
日常診療そのものが「学びの材料」になる
という点です。
■ なぜ日本は遅れているのか?
日本は、実は
医療データの「量」だけを見れば世界最大級です。
レセプトや健診データを集めた
NDB(ナショナルデータベース)には、
ほぼ全国民分の情報が蓄積されています。
それにもかかわらず、日本が Learning Health System として遅れている理由は明確です。
① 診療所レベルのデータが標準化されていない
- 血圧や体重がテキストで記載されている
- 検査項目名やコードが医療機関ごとに異なる
- 病名が「診療用」と「請求用」で分かれている
日本の保険診療では、診療内容を保険請求する際に、
あらかじめ決められた
「保険上認められる病名」を使用する必要があります。
そのため、医師が医学的に判断している病名と、
保険請求のために登録される病名が、
必ずしも完全に一致しないことがあります。
これは制度上のルールによるもので、
実際の診療内容が変わるわけではありません。
しかしこの仕組みが、診療現場で考えられている病状と、
国に集められるデータ上の病名との間にズレを生み、
診療データをそのまま機械的に集め、学習に使うことを難しくしている
原因の一つとなっています。
② データは「診療後」に集まり、「現場に戻らない」
日本のNDBは、診療後にレセプトという形で集められた
行政・請求目的のデータです。
- 医療費分析
- 政策評価
には活用されますが、
- 「自分の診療は他施設と比べてどうか」
- 「どこを改善すべきか」
といった、診療現場への即時フィードバックは、ほとんど行われていません。
③ アウトカム(診療の結果)が制度に反映されにくい
日本の診療報酬は、
- 検査をした
- 処方をした
といった
「行為(プロセス)」を評価する仕組みが中心です。
- 血圧が本当に下がったか
- 合併症を防げたか
- 生活の質が改善したか
といった
アウトカム(結果)が、
制度として十分に評価される仕組みは、まだ整っていません。
■ その中で「外来データ提出加算」は何を意味するのか?
こうした状況の中で2024年6月1日(令和6年6月1日)から導入されたのが
外来データ提出加算です。
この加算は、単なる「点数」ではありません。
外来データ提出加算の本質は、
- 診療所レベルのデータを
- 標準化された形式で
- 定期的に国へ提出する
という、日本ではこれまでほとんどなかった仕組みにあります。
つまり、
診療所の日常診療を Learning Health System の中に組み込むための「第一歩」
が、外来データ提出加算なのです。
■ なぜ重要なのか?
外来データ提出加算が重要な理由は、次の点にあります。
① 診療所のデータが「学習の材料」になる
これまで日本の医療データは、
- 病院中心
- 入院中心
でした。
外来データ提出加算は、
生活習慣病を診ている診療所のデータを、初めて体系的に集める仕組み
と言えます。
② 将来のガイドラインや質評価の基盤になる
どの治療が、
- どのようなリスクの
- どのような疾患に
- どの程度有効か?
といった情報は、
日常診療データを大量に集めなければ分かりません。
外来データ提出は、将来の
「より現実に即したガイドライン」
を作るための重要な土台になります。
③ 将来の「質を評価する医療」への布石
現時点では、時間・労力・コストをかけてデータを提出しても、
医療機関に大きな見返りがあるとは言えません。
※ 2025年末時点で、外来データ提出加算を算定しているのは、
全国のクリニック約10万施設のうち約1,000施設(約1%)にとどまっています。
しかし将来、
- ベンチマークの提示
- 診療改善に向けたフィードバック
- 質に基づく評価
が始まれば、
「良い結果を出している診療所が正当に評価される医療」
につながる可能性が期待されます。
■ 当クリニックが外来データ提出を重視する理由
すぎもと内科・糖尿病内科クリニックでは、
- 血糖・血圧・脂質の改善
- 低血糖や副作用の回避
- 合併症の予防
- 皆さまの生活のしやすさ
といった
アウトカムを重視した診療を行っています。
外来データ提出は、こうした診療を
「見えない努力」で終わらせることなく、将来の医療全体の質向上につなげるための一歩
だと考えています。
■ まとめ
- Learning Health System は、
医療が自ら学び、より良くなっていく仕組み - 日本はデータ量は多いものの、
診療所レベルでの学習サイクルはまだ弱い - 外来データ提出加算は、
日本の医療を「学習する医療」へ近づけるための重要な第一歩
残念ながら、すぐに成果が見える制度ではありません。
しかし、
今この段階で参加しなければ、いつまでも結果は見えてきません。
この取り組みが、
将来のより良い医療につながると、当クリニックは考えています。
院長からひと言
医療の価値は、診察室の中だけで決まるものではありません。
診察室を出たあとの、皆さまの日常の生活が、少しでも楽になること。
それを支える医療を、
今年も地道に続けていきたいと考えています。
そして、現在も人口が増え、発展を続ける日和田地区が、
いつの日か
郡山市一、福島県一、東北一、そして日本一、
生活習慣病による死亡率が低い「長寿の里」
になることを、心から願っています。
(文責:すぎもと内科・糖尿病内科クリニック 院長 杉本一博)