最新研究から紐解く 便秘と肥満、GLP-1関連薬との関係とは?
便秘について、患者さんからよく受ける質問の一つに、
「便秘だと太りやすいのですか?」「便秘を治せば、体重も減りますか?」
というものがあります。
結論から言うと、便秘そのものが脂肪を増やす、あるいは便秘を改善するだけで大きくやせる、という明確な医学的根拠は十分ではありません。
しかし近年の研究では、便秘は単なる腸の問題ではなく、肥満、内臓脂肪、代謝異常、服用薬、食事量の変化などとも関係している可能性が示されています。
さらに、GLP-1受容体作動薬やチルゼパチドなどの肥満症治療薬・糖尿病治療薬が広く使われるようになり、治療中の便秘や腹部膨満感にも注意が必要です。
本コラムでは、肥満と便秘の関係、内臓脂肪を反映するLAP、便秘改善と体重減少の本当の関係、GLP-1関連薬で便秘が起こる理由について整理します。
1. 肥満そのものも便秘と関係する
米国の大規模健康調査であるNHANESを用いた2024年の研究では、20歳以上の成人11,785人が解析されました。NHANESとは、米国政府が継続的に行っている国民健康栄養調査で、年齢、性別、人種・民族などが米国全体を代表するように設計されています。日本でいえば「国民健康・栄養調査」に近い位置づけの大規模調査です。
この研究では、便秘を「排便回数が週2回以下」と定義しました。その結果、米国成人全体では、およそ10人に1人が便秘に該当すると推定されました。さらに、BMI 28 kg/m²を超える人、腹囲身長比が高い人、LAP(腹囲と中性脂肪から計算する脂質蓄積指標)が高めの人では、便秘リスクが高い傾向が示されました。
一方、BMI 35 kg/m²以上の高度肥満者150人を対象にしたブラジルの研究では、便秘の頻度はおよそ4人に1人でした。便秘は、30歳未満、多剤併用、過去の喫煙と関連していました。興味深いことに、水分摂取量、身体活動量、食物繊維を多く含む食品の摂取と便秘との間に、明確な関連は認められていません。
<ポイント>
肥満に伴う便秘は、単純に「野菜不足」「水分不足」だけでは説明できません。内臓脂肪、腸管運動、併存疾患、服用薬、食事量、活動量、精神心理的要因などが重なって起こると考える必要があります。
2. BMIだけでは見えない「内臓脂肪型肥満」――LAPとは?
肥満と便秘の関係を考えるうえで、BMIだけを見るのでは不十分なことがあります。BMIは身長と体重から計算されるため、筋肉量が多い人も「肥満」と判定されることがあります。また、同じBMIでも、皮下脂肪が多い人と内臓脂肪が多い人では、糖尿病、脂肪肝、心血管疾患のリスクは異なります。
そこで注目される指標の一つが、LAP(Lipid Accumulation Product:脂質蓄積指標)です。LAPは、腹囲と中性脂肪を組み合わせて計算し、内臓脂肪・中心性肥満の程度を反映しやすい指標です。
| 性別 | LAPの計算式 |
| 男性 | LAP =(腹囲[cm]−65)× 中性脂肪[mmol/L] |
| 女性 | LAP =(腹囲[cm]−58)× 中性脂肪[mmol/L] |
※日本の検査では中性脂肪は通常mg/dLで表示されます。厳密に計算する場合は、mmol/Lへの換算(中性脂肪[mg/dL]×0.01129)が必要です。
LAPは、「お腹まわりに、どれだけ代謝的に悪影響を及ぼしやすい脂肪がたまっているか」をみる物差しです。
ただし、LAPが高いから必ず便秘になる、あるいはLAPを下げれば必ず便秘が改善する、と断定できるわけではありません。多くは観察研究であり、因果関係までは証明できない点に注意が必要です。
3. 便秘が治れば、やせるのか?
「便秘を改善すれば脂肪が燃えて、大幅に体重が減る」というわけではありません。排便がスムーズになると、腸の中にたまっていた便や水分、ガスが減るため、体重計の数字が一時的に下がったり、お腹まわりがすっきりしたように感じたりすることはあります。しかし、これは主に便や水分による物理的な変化であり、体脂肪が直接減ったわけではありません。
一方で、便秘対策として行う食事や生活習慣の改善が、結果として体重管理を助けることはあります。ここは因果関係が逆に見えやすい部分です。つまり、「便秘が治ったからやせる」のではなく、「便秘対策として整えた食事・生活習慣が、減量にも有利に働く」と考えるのが正確です。
たとえば、サイリウム、グルコマンナン、難消化性デキストリン、イヌリンなどの食物繊維は、便のかさや水分量に影響し、便秘改善に役立つことがあります。さらに、水溶性で粘性のある食物繊維は、胃の中で水分を含んで膨らみ、満腹感を保ちやすくするため、体重管理を補助する可能性があります。ただし、食物繊維サプリだけで大きくやせると期待するのは適切ではありません。あくまで補助的な位置づけです。
また、腸内細菌と肥満の関係も注目されています。水溶性食物繊維や発酵性食物繊維が腸内細菌によって分解されると、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸が作られます。短鎖脂肪酸は腸管の健康、炎症、糖代謝、エネルギー代謝に関与する可能性がありますが、人でどの程度の減量効果につながるかはまだ研究途上です。
4. 「食物繊維を増やせばよい」とは限らない
便秘と聞くと、まず「食物繊維を増やしましょう」と考えがちです。しかし、肥満者を対象にした研究では、食物繊維を多く含む食品の摂取や水分摂取と便秘との間に明確な関連がみられないこともあります。
日本人若年女性3,835人を対象にした研究でも、食物繊維摂取量や総水分摂取量は機能性便秘と関連せず、むしろ食品由来の水分摂取不足やマグネシウム摂取不足が便秘と関連していました。したがって、便秘では、食物繊維だけを増やすのではなく、水分やミネラルを多く含む食品摂取を含めて考える必要があります。
水だけをがぶがぶ飲めば便秘が必ず改善するわけでもありません。ただ食物繊維サプリを使う場合は水分と一緒に摂る必要がありますが、ふだんから水分が足りている人では、水をさらに増やしても効果は期待出来ません。むしろ、野菜、果物、海藻、きのこなど、水分と食物繊維・ミネラルを同時に含む自然食品を無理なく取り入れることが現実的です。
特に食物繊維サプリを急に増やすと、かえって腹部膨満感やガスが強くなることもあります。すでにお腹が張っている人では、少量から始めることが大切です。
それでも改善しない場合には、便を柔らかくする浸透圧性下剤を検討します。代表的な薬には、酸化マグネシウム、ラクツロース、ポリエチレングリコール製剤などがあります。
ただし、ポリエチレングリコール製剤は保険診療上、他の便秘症治療薬で効果不十分な場合に使用する条件が付されています。実際の薬剤選択は、便秘の程度、腎機能、年齢、腹部膨満感、飲みやすさ、過去の便秘薬の使用状況を踏まえて判断します。
浸透圧性下剤とは、腸の中に水分を引き込んで、便を柔らかくし、排便しやすくするタイプの下剤です。
<浸透圧性下剤の主な選択肢>
| 薬剤 | 商品名例 | 飲みやすさ・特徴 | 注意点 |
| ポリエチレングリコール製剤 | モビコールなど | 水に溶かして飲む。電解質への影響が少ない。 | 塩味・飲む量が苦手な人がいる。他の便秘症治療薬で効果不十分な場合に使用する。 |
| 酸化マグネシウム(Mg) | マグミットなど | 錠剤で使いやすく安価。 | 高齢者・腎機能低下例では高Mg血症に注意。 |
| ラクツロース | ラグノスなど | ゼリー製剤がある。 | 膨満・ガスに注意。 |
※薬価は改定で変わるため、掲載時に最新薬価をご確認ください。薬剤選択は、便の硬さ、腎機能、腹部膨満感、飲みやすさ、併用薬を踏まえて判断します。
<図1 日本の慢性便秘症診療アルゴリズム>

日本の『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』では、ポリエチレングリコール製剤、酸化マグネシウム、ラクツロースはいずれも「浸透圧性下剤」に分類され、慢性便秘症に対して強く推奨されています。ただし、同じ浸透圧性下剤でも特徴は異なります。酸化マグネシウムは高齢者や腎機能低下例では高マグネシウム血症に注意が必要です。ポリエチレングリコール製剤は有効性を支持する報告が多く、ラクツロースはゼリー製剤などの選択肢があります。
さらに、慢性便秘症に対しては、腸管内の水分分泌や胆汁酸の働きを利用する薬として、ルビプロストン(アミティーザ)、リナクロチド(リンゼス)、エロビキシバット(グーフィス)などが使われることもあります。一方、センナ・センノシド、ピコスルファートなどの刺激性下剤は、毎日漫然と使うより、数日間排便がない場合や便がたまってつらい場合の短期使用・レスキューとして考えます。
5. GLP-1関連薬で便秘が起こる理由

図2 GLP-1関連薬で便秘が起こる主な流れ
GLP-1受容体作動薬やチルゼパチドは、食欲を抑え、胃から食べ物が出ていく速度を遅くし、満腹感を高めることで体重を減らします。チルゼパチドは、GIP受容体とGLP-1受容体の両方に作用する薬剤です。
この作用は減量には有利ですが、便秘には不利に働くことがあります。食欲が低下すると食事量が減り、便の材料そのものが少なくなります。さらに、食事量が減る人は水分摂取量も減りがちです。加えて、GLP-1関連薬では胃排出遅延や腸管運動低下が起こることがあり、便やガスが停滞しやすくなります。
「食べる量は減っているのに、お腹が張る」という一見矛盾した症状は、食べ過ぎではなく、便やガスが停滞しやすくなることで起こる可能性があります。
つまり、GLP-1関連薬による便秘は、単なる「水分不足」ではなく、食事量低下、便量減少、胃腸運動低下、水分摂取低下が重なって起こる症状と考えられます。
6.実際の対応
1)開始前に排便状況を確認する
もともと便秘がある方では、GLP-1関連薬開始後に悪化する可能性があります。排便回数、便の硬さ、腹部膨満、使用中の便秘薬を確認しておきます。
2)食事量を極端に減らしすぎない
食欲が落ちても、たんぱく質、野菜、海藻、豆類、果物、全粒穀物などを少量ずつ組み合わせ、便の材料を確保します。
3)水だけでなく「食品由来の水分」も意識する
水を大量に飲むより、瑞々しい野菜・果物、汁物、海藻、きのこなどから自然に水分とミネラルを摂る方が続けやすく、栄養面でも有利です。
4)無理のない身体活動を続ける
運動の便秘改善効果は一貫しませんが、身体活動は全身の健康維持と減量中の筋肉量低下予防に重要です。ウォーキングなど、無理なく続けられるものから始めます。
5)腹部マッサージは補助策として検討
ガイドラインでは、1日15分、週5回の腹壁マッサージが慢性便秘症の症状改善に有効だった研究が紹介されています。強く押さず、腹部をやさしく動かす程度にします。
6)増量を急がない
便秘、悪心、腹部膨満が残っている状態でGLP-1関連薬を増量すると、症状が悪化することがあります。症状が強い場合は、増量延期、減量、中止を含めて医療者に相談します。
7. 早めの受診が必要な便秘
次のような症状がある場合は、自己判断で下剤を増やすのではなく、早めに医療機関へ相談してください。
| ・強い腹痛・背部痛 | ・嘔吐 | ・ガスも便も出ない | ・血便 |
| ・発熱 | ・急な腹部膨満 | ・急に始まった強い便秘 |
GLP-1関連薬では、まれに重い消化器症状が問題になることがあります。単なる便秘と思い込まず、症状が強い場合は薬剤の中止、減量、増量延期を含めて相談することが大切です。
まとめ
● 便秘は、肥満の方に比較的よくみられる症状です。とくに、BMIだけでなく、腹囲身長比やLAPのような内臓脂肪型肥満を反映する指標が便秘と関連する可能性が示されています。
● ただし、便秘の原因は「食物繊維不足」だけではありません。食事量、水分、食品由来水分、マグネシウム、服用薬、腎機能、活動量を含めて考える必要があります。
● 便秘を改善すること自体が、直接的に脂肪燃焼を起こすわけではありません。しかし、便秘を改善するための食事・水分・身体活動・薬剤調整は、結果として体重管理を支える土台になります。
● GLP-1受容体作動薬やチルゼパチドでは、食欲低下、食事量・水分摂取量の低下、胃排出遅延、腸管運動低下が重なり、便秘が起こりやすくなります。便秘を我慢したまま増量を続けるのではなく、早めに相談し、生活習慣と薬剤調整を組み合わせて対応することが重要です。
便秘対策は「やせるための裏技」ではありません。
肥満治療を安全に続けるための、重要なコンディションづくりです。
参考文献
1. Xiang N, Xu L, Qian H, Zhang D. Multiple obesity indices suggest a close relationship between obesity and constipation: evidence from NHANES. BMC Public Health. 2024;24:1273. doi:10.1186/s12889-024-18647-y.
2. Silveira EA, Santos ASAC, Ribeiro JN, Noll M, Rodrigues APS, de Oliveira C, et al. Prevalence of constipation in adults with obesity class II and III and associated factors. BMC Gastroenterology. 2021;21:217. doi:10.1186/s12876-021-01806-5.
3. Murakami K, Sasaki S, Okubo H, Takahashi Y, Hosoi Y, Itabashi M, et al. Association between dietary fiber, water and magnesium intake and functional constipation among young Japanese women. Eur J Clin Nutr. 2007;61:616–622. doi:10.1038/sj.ejcn.1602573.
4. 日本消化管学会編. 便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症. 南江堂, 2023.
5. Chetty AK, et al. GLP-1 receptor agonists and gastrointestinal adverse effects. 2024;30:292-303.
(文責:医療法人寿里会すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)