コラム
食品安全:日本のトランス脂肪酸、なにが問題?~「規制はゆるめ」だからこそ、上手に選んで減らすコツ~
そもそも「トランス脂肪酸」って?
- トランス脂肪酸(TFA)は、不飽和脂肪酸の二重結合が“trans型”になったもの。
- cis型脂肪酸より融点↑、常温で固まりやすい、体内に取り込まれると細胞膜の性状が変化し受容体・輸送体・チャネルなど膜タンパクの働きが変化。
- 主に2つの由来があります。
- 工業由来(iTFA):PHOを使うなど油脂の加工や高温精製で生じる。
- 反芻由来(rTFA):牛・羊の乳や肉に自然に少量ふくまれる。
→ 健康影響で問題視されているのは主に工業由来です。
- 工業でPHOから発生する工場的トランス脂肪は毎年最大50万人の早期死亡(主に冠動脈疾患)に関連。WHOは世界からの排除を各国に勧告しています。

以下は日本を含む世界各国のトランス脂肪酸(TFA)とそのもとになる工場で生産される部分水素添加油(PHO)の食品添加への規制の現状をまとめた表です。
PHOは要するに工場で作られる自然界には存在しない人工油です。
日本の現状
- 法律での上限値やPHO全面禁止はなし。栄養成分の「トランス脂肪酸」表示も任意です。
- 平均摂取量は国際目標(総エネルギーの1%未満)を下回るとの評価がありますが、加工食品の摂取が多い方では上振れしうるため注意が必要です。
以下の表を見ると禁止も上限設定もない日本の緩和的な規制が理解できます。
| 国・地域 | 規制タイプ | しきい値・内容 | 施行・発効 | メモ |
| 日本 | 法的上限なし/PHO禁止なし | TFA表示は任意。平均摂取は概ねエネルギー比≈0.3%と報告(ただし個人差は不明)。 | ― | 行政資料・国際会合資料でも上限設定やPHO禁止は未導入と説明 (Food Safety Commission of Japan) |
| 米国 | PHO全面排除 | PHOの食品使用を規則から正式撤廃。 | 2023-12-22 最終確定 | 実務は2018~2020年に市場退出済み (Federal Register) |
| カナダ | PHO使用禁止 | PHOを食品の汚染物質リストに追加し使用禁止。 | 2018-09 施行 | 2022年に関連規則も整合改正 (カナダ政府) |
| EU(加盟国) | TFA上限 | 脂質100 g中2 g以下(動物由来TFA除外)。 | 2021-04-01 | 事業者向け情報提供規定も付随 (EUR-Lex) |
| デンマーク | TFA上限 | 脂質100 g中2 g以下。 | 2003→2004 完全施行 | その後EU規則へ移行(世界保健機関) |
| トルコ | TFA上限 | 脂質100 g中2 g以下。 | 2021-01 | WHO勧告に整合 (世界保健機関) |
| シンガポール | PHO禁止 | すべての食品でPHO原料禁止(輸入含む)。 | 2021-06 | 政府サイトで明記 (Ministry of Health) |
| タイ | PHO禁止 | PHOおよび含有食品の製造・輸入・販売禁止。 | 2019-01-09 | 官報公布・猶予後に施行 (USDA Apps) |
| インド | TFA上限(全食品) | 全食品で2%以下。 | 2022-01 | FSSAI通知 (fssai.gov.in) |
| メキシコ | TFA上限+PHO禁止 | 2%上限に加えPHO全面禁止。 | 2023-09 施行 | 連邦保健法改正 (NCD Alliance) |
| ブラジル | 段階導入→PHO禁止 | 2021に2%上限、2023-01からPHO全面禁止。 | 2021→2023 | ANVISAのRDC 332/2019 (Global Health Advocacy Incubator) |
| ペルー | TFA上限+PHO禁止 | 段階経て2%上限、PHO由来TFAの使用禁止に到達。 | 2021 主要段階 | PAHO解説 (パンアメリカ保健機構) |
| フィリピン | iTFA 排除政策 | 2023までに工業的TFAを供給から排除(DOH AO 2021-0039等)。 | 2021→2023 | 省令・FDA通達で実施(USDA Apps) |
| 南アフリカ | TFA上限 | 脂質100 g中2 g以下(小売・外食等すべて)。 | 2011 | 保健省規則R127 (南アフリカ保健省) |
| WHOの位置づけ | “ベストプラクティス” | ①2%上限 または ②PHO全面禁止。 | ― | 2024年には複数国を達成認証(例:デンマーク、タイ等)(世界保健機関) |
たった“油の質”の違いが、寿命を縮めます。

上図(BMJ掲載の系統的レビュー&メタ解析)は、トランス脂肪酸を多く摂る人ほど、全死亡が約34%、冠動脈疾患による死亡が約20~30%高まることを示しています。
つまり“少し多めに摂る”だけでも、将来の心筋梗塞リスクを確実に押し上げるということ。日本は上限規制やPHO(部分水素添加油)禁止が未導入で表示も任意のため、加工食品をよく食べる方や高血圧・脂質異常症・糖尿病など心血管疾患リスク因子を多く持つ方ほど、日々の食品の「選び方」=自分の身を守れるかの分かれ目になります。
ポイントまとめ
- 日本は上限値の義務化やPHO(部分水素添加油)(トランス脂肪酸のもとになる工場で生産される人工油)の全面禁止が未導入で、表示も基本は任意。
- 欧米・EUなどは「脂質100g中トランス脂肪酸2g以下」やPHO禁止が広がり、対策が一歩先行。
- PHO由来の工業的トランス脂肪酸(iTFA)は心血管病(心筋梗塞・脳卒中)リスク上昇と関連。
- とくにiTFAが含まれやすい加工食品をよく食べる習慣と心血管疾患リスク(高血圧・脂質異常症・糖尿病・喫煙・CKD・肥満など)は関連性が高いため、日々の食品の選び方が大切です。
どんな食品に多い?
- 過去にPHOを使いがちだったカテゴリー:一部のマーガリン/ショートニング/ファットスプレッド、パイ・デニッシュ・ビスケット・ドーナツ、冷凍菓子・業務用ホイップ、一部のフライ油など。
| 区分 | いま含まれ得る? (PHO / iTFA) | 実情のめやす | 確認ポイント (原材料・表示) | 補足 |
| マーガリン | 製品による:PHO使用の有無はまちまち。iTFAはPHO由来や製造工程で微量生じ得る。 | 国内大手はPHO不使用ラインが増加。 | 原材料に**「部分水素添加(油/植物油)」があればPHO使用。「PHO不使用」「部分水素添加油不使用」**等の任意表示がある製品も。 | 近年は完全水素添加油+エステル交換やパーム油主体で可塑性を出す配合が多い。 |
| ショートニング | 要注意(業務用は差が大きい):従来はPHOが多用。現在はnon-PHOショートニングもある。 | 業務用はメーカー仕様書の確認が確実。 | 原材料の**「部分水素添加」「硬化油」の表記に注意。non-PHOやトランス脂肪低減**の規格明記が望ましい。 | パーム系や完全水素添加油+インタレスタリフィケーションで代替する製品が増加。 |
| ファットスプレッド | 製品による:名称は「油脂80%未満のスプレッド」という規格分類で、PHO使用の有無とは別。 | PHO不使用品も多数ある一方、製品により差。 | 「部分水素添加(油)」の有無を確認。「トランス脂肪酸0 g」表記は基準未満の微量を含む可能性に注意。 | 「ファットスプレッド」という名前だけでは判断不可。中身を要確認。 |
- 近年はPHO不使用品も増えていますが、製品によって差があります。
今日からできる「6つの選び方」
- 原材料名をチェック
「部分水素添加(油)/硬化油/partially hydrogenated」の記載がないものを選ぶ。 - “PHO不使用(non-PHO)”の表示がある製品を優先
- 栄養成分の「トランス脂肪酸 0g」表記に注意
表示基準未満なら「0」と書けるため、完全ゼロの保証ではない。迷ったら原材料名で判断。 - 揚げ物は頻度と量を控えめに
長時間の高温で油が劣化すると、微量のiTFAが増え得るため。 - 置き換えを上手に
調理油はオリーブ油/なたね油など非硬化油を。菓子はナッツ・大豆・無糖ヨーグルトなどへ置き換え。 - 安価なお菓子・パンの“ショートニング”に注意
多くの安価な菓子・菓子パン・スナック・ビスケット類でショートニングが使われます(※近年はPHO不使用製品もあるが製品差あり)。原材料に「ショートニング」+「部分水素添加」等の記載があれば避けるのが無難。代わりに原材料がシンプルなパンやバター/オリーブ油使用の製品を選択。
CVDリスクを持つ方はここに注意
- 高血圧・脂質異常症・糖尿病・慢性腎臓病・喫煙・家族歴・肥満などがある方は、
- “PHO不使用”の明記(ただし表示するかは未だメーカー任意のためPHOが使用されやすいサクサクしたお菓子などの加工食品は避けるのが賢明)
- 原材料の「部分水素添加」有無
- 揚げ物の回数
を意識して、総脂質の質を改善しましょう。薬や運動と同じく、小さな積み重ねが動脈硬化リスクの低減につながります。
よくある疑問
- 「バターとマーガリン、どっちが安全?」
バターに含まれるのは主に反芻由来のTFAで量は少なめ。一方、マーガリンでもPHO不使用品は多数ありますが、PHO使用を明示する特別な記載義務がないため注意が必要。企業が任意で「PHO不使用」と表示するケースはありますが、義務ではありません。 - 「PHO不使用ならTFAはゼロ?」
完全ゼロとは限りません(精製・加熱で微量生じうる)が、PHO使用時より大幅に低くできます。
結論:
日本においては政府が明確にPHO使用禁にしておらず、「PHO不使用」表示も任意のため、PHO添加されている加工食品を完全にみわけることは不可能です(=加工されていないバターの方が安全)。
まとめ
- 日本は国際的にみて規制がゆるめ。だからこそ私たちの選び方がいちばんの対策。
- 原材料で“部分水素添加”がないかをまず確認、PHO不使用を選択。
- 揚げ物・菓子類の頻度を見直し、非硬化の植物油やシンプルな食材に置き換えましょう。
不安な方は、診察時に普段よく食べる商品をお持ちください。栄養士と一緒に、あなたに合う具体的な置き換えをご提案します。
(文責:杉本一博)