(NEW)🟥 糖尿病予備群への“後回し型医療”の問題点:ATTICAコホート研究から考える日本の医療制度
■ はじめに
健康診断で「血糖値が少し高い」と言われた方の多くは、
糖尿病予備群(空腹時血糖異常:IFG)に該当します。
一般的には「まだ病気ではない」と説明され、経過観察となることが多い状態です。
しかし近年、この“糖尿病予備群”に対する認識は大きく変わりつつあります。
■ ATTICAコホート研究とは何か
ギリシャで実施されたATTICAコホート研究(2002–2022)は、
糖尿病予備群の臨床的意義を再評価する重要な研究です。

< 研究の概要 >
- 対象:1,796人(開始時に糖尿病・心血管疾患なし)
- 追跡期間:20年間
- 平均年齢:約43–46歳
- 評価項目:心筋梗塞、脳卒中、心不全などの心血管疾患発症
■ この研究が示した重要な結果
① 糖尿病への進行
20年間の追跡で糖尿病予備群の人は全例(100%)2型糖尿病へ進行
正常血糖では13.5%
👉 長期的に2型糖尿病へ進行しやすい
② 心血管疾患リスクの増加
- 糖尿病予備群 ➡ 40.2%が心血管疾患を発症
- 正常血糖 ➡ 30.2%
👉 明らかに高いリスク
③ 独立したリスク因子
糖尿病予備群は、
年齢や脂質異常などを調整しても、独立して心血管疾患リスクと関連
④ “発症時期”が重要
さらに重要なのは、
より早い段階で糖尿病を発症した人ほど、その後の心血管疾患リスクが高かった
という点です。
■ 何を意味するのか
この研究が示している本質は明確です。
👉 糖尿病予備群は単なる“予備”ではない
👉 すでに将来の心血管疾患につながる病態が始まっている段階です。
■ しかし日本の医療制度はどうか
ここで大きな問題が浮かび上がります。
日本では、糖尿病予備群の段階では
保険診療で十分な栄養指導を行うことが難しい場合があります
<その結果起きていること>
- リスクがあると分かっていても介入できない
- 糖尿病になってから初めて本格的な医療介入が始まる
■ これは“後回し型医療”ではないか
本来、医療の理想は発症前に防ぐこと(予防医学)です。
しかし現状は、「悪くなってから対応する医療」=「後回し型医療」
という構造になっています。
■ なぜ問題なのか
糖尿病予備群の段階で介入できなければ、
- 糖尿病の発症
- 心筋梗塞・脳卒中
- 心不全
- 腎不全
といった重篤な疾患へと進行する可能性が高まります。
その結果、医療費・社会的負担はむしろ増大します。
■ 科学と制度のギャップ
現在の医学は、
👉 糖尿病予備群を“すでにリスクが始まっている状態”
と認識しています。
しかし制度は依然として、
👉 発症後の医療中心です。
これは明らかに、 科学と制度のギャップです。
■ これから必要な医療の方向性
ATTICA研究の示唆から導かれるのは、
✔ 糖尿病予備群への早期介入
- 栄養指導
- 運動指導
- 体重管理
✔ 保険制度の見直し
発症前から医療的支援が可能な仕組みへ
✔ 医療のパラダイムシフト
👉 治療中心 → 予防中心へ
■ 糖尿病は「結果」であり、単純な自己責任ではありません
糖尿病の発症には、
- 遺伝的要因
- 加齢
- 生活環境
- 食環境
- ストレス
など、さまざまな要因が関わっています。
そのため、単純に「自己管理だけの問題」と捉えることは適切ではありません。
■ それでも生活習慣は重要です
一方で、食事・運動・体重管理といった生活習慣は、病状に大きく影響します。
つまり、
- 原因は一つではない
- しかし改善の手段として生活習慣は非常に重要
ということです。
■ 医療の役割
だからこそ医療の役割は、
「努力不足」と評価することではなく、
その方に合った現実的な改善方法を一緒に考えること」
にあります。
■ 一言まとめ
「糖尿病は単一の原因で起こる病気ではありません。しかし、生活習慣の改善は、その経過を大きく変える力を持っています。」
■ 当クリニックの考え
糖尿病予備群を 「今こそ介入すべき重要なタイミング」と捉えています。
糖尿病になってからではなく、その前の段階で
- 食事
- 体重
- 血圧・コレステロール
を適切に管理することが、将来の心血管疾患を防ぐ最も有効な戦略です。
■ まとめ
👉 糖尿病予備群は放置すべき状態ではありません
👉 すでに将来の疾患リスクが始まっています
それにもかかわらず、十分な介入が難しい現状は“後回し型医療”と言わざるを得ません。
■ 最後に
「病気になってから治す医療」から「病気になる前に防ぐ医療」へ。
ATTICAコホート研究は、その転換の必要性を強く示しています。
(文責:すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)