あなたの腎臓、大丈夫ですか?~透析を防ぐABCDEアプローチ~
■ CKDは「静かに進む命に関わる病気」です
慢性腎臓病(CKD)とは、
腎臓の働きが低下している状態、または腎臓にダメージがある状態が3か月以上続く病気です。
具体的には
- 腎機能(eGFR)が60未満
または - 尿アルブミン(尿たんぱく)が出ている
いずれかが続く場合に診断されます。
現在世界で急速に増えている病気のひとつです。
👉日本を含む長寿国において、CKDは2050年に主要死因の上位(第3位)になる
と予測されています。
一方で、心筋梗塞や脳卒中は予防医療の進歩により減少しています。
では、なぜ腎臓病だけが増え続けているのでしょうか?
■ これまでの腎臓医療の問題点
従来の腎臓医療は、「悪くなってから治療する」というスタイルが中心でした。
つまり
- 腎機能(eGFR)が低下してから診断
- 進行すると透析や腎移植
という流れです。
しかし、透析治療には大きな問題があります。
👉 透析治療者の寿命は一般の約半分とされ、特に若年者では数十年単位で短縮する可能性があります。
■ 今、腎臓医療は大きく変わっています
現在は「透析にならないように予防する医療」へ考え方が変わりつつあります。
さらに近年は
- SGLT2阻害薬
- GLP-1受容体作動薬
- ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
など、腎臓を守る薬が飛躍的に進歩しています。
■ 最大の問題:早期発見ができていない
実は最も大きな問題はここです。
👉 CKDの最大80%は早期に見つかっていない
原因は、「糖尿病の人だけ検査すればよい」という古い考え方です。
しかし実際には、糖尿病がなくてもCKDは発症します
■ 透析を防ぐカギは「アルブミン尿」
腎臓病の超重要ポイントは「尿アルブミン」です。
実は、腎機能が正常でもアルブミン尿があれば、すでに腎臓はダメージを受けています。
■ 衝撃の事実
研究では
👉 早期に治療すれば透析を約30年遅らせる可能性
つまり
👉 多くの方は「一生透析にならない」可能性もある
ということです。
■ 図の説明文

この図は、腎機能(eGFR)の低下スピードから、将来透析が必要になるまでの期間を予測したモデルです。
緑の線はSGLT2阻害薬による治療を行った場合、赤の線は治療を行わなかった場合を示しています。
同じ腎臓病でも、
👉 早期に発見して治療を開始した場合、透析までの期間は約26年延長
👉 進行してから治療を開始した場合は約2年程度の延長にとどまる
ことが示されています。
つまり、腎臓病は「いつ治療を始めるか」で将来が大きく変わる病気です。
また、図上部の通り、
👉 これらの早期の腎臓病は尿アルブミン(UACR)を測定しなければ見つけることができません。
■ そこで登場する「ABCDEアプローチ」
ABCDEアプローチとは、CKDを早期発見・予防するためのシンプルなチェック方法です。
🟦 ABCDEとは?
| 項目 | 内容 | 何をみる? |
| A | Albuminuria | 尿アルブミン |
| B | Blood Pressure | 血圧 |
| C | Cholesterol | 脂質 |
| D | Diabetes | 血糖 |
| E | eGFR | 腎機能 |

■ ポイントは「A:アルブミン尿」
実、Aだけが圧倒的に見逃されています。
研究では
- 糖尿病の方でも検査率 約35%
- 高血圧のみでは 約4%
という低さです。
👉 日本では、尿アルブミン検査が糖尿病以外では保険適用されていません。
つまり、
- 高血圧
- 脂質異常症
- 肥満
- 加齢
といった、腎臓病のリスクがある方でも、原則として検査が行われにくい仕組みになっています。
■ 国際的に見ると
欧米では、CKDは「心血管リスク」として広く捉えられており
アルブミン尿は重要なスクリーニング項目です。
しかし日本では
👉 「糖尿病の合併症検査」という位置づけにとどまっているのが現状です。
■ 表の解説

この表は、尿アルブミン検査の適用範囲や考え方について、
👉 日本の保険診療
👉 国際ガイドライン(KDIGO 2024・NICE NG203)
を比較したものです。
■最も重要なポイント
・ 日本では「糖尿病の検査」
・ 世界では「腎臓と心血管リスクの検査」
という根本的な違いがあります。
① 対象範囲の違い(最大の問題)
🇯🇵 日本 ➡ 糖尿病に限定
🌍 KDIGO・NICE ➡ すべてのリスク患者(高血圧・肥満・心血管疾患なども含む)
👉 つまり、日本では一番測定を行うべき多くのCKDの方が検査対象から外れている可能性があります。
② 測定目的の違い
🇯🇵 日本 ➡ 糖尿病性腎症の評価
🌍 国際基準 ➡ 「CKDの早期発見」・「進行リスク評価」・「治療効果判定」
👉 役割が「限定的」か「包括的」かの違い
③ 測定頻度の違い
🇯🇵 日本 ➡ 3か月に1回(算定制限あり)
🌍 国際基準 ➡ 年1回以上(リスクに応じて増やす)
👉 本来は“必要に応じて柔軟に測るべき指標”
④ 制度上の制約
🇯🇵 日本 ➡ 非糖尿病では原則算定不可
🌍 KDIGO・NICE ➡ 制約なし(広く推奨)
👉 ここが最も本質的な問題です
⑤ 評価方法の違い
🇯🇵 日本 ➡ 単独評価(アルブミンのみ)
🌍 国際基準 ➡ eGFR × アルブミン尿の2軸評価
👉 “腎機能だけでは不十分”という考え方
⑥ リスクの捉え方
🇯🇵 日本 ➡ 糖尿病中心
🌍 国際基準 ➡ 「高血圧」・「心血管疾患」・「肥満」・「家族歴」 など広く評価
結論(最重要メッセージ)
・ 日本は「診断する仕組みが狭い」
・ 世界は「予防する仕組みが広い」
■ 「まだ正常」は安心ではありません
重要なポイントです。
👉 eGFRが正常でも安心ではありません
- eGFR正常+アルブミン尿あり → 高リスク
👉 CKDは「気づかないまま進む病気」です。
さらに見逃せない問題があります。
👉 尿アルブミン検査は、数値が高くなった後も継続的に評価しにくいという制度上の課題があります。
特に、尿アルブミンが高度に上昇(例:300 mg/gCr以上)している場合でも、保険上の制約により繰り返し検査が困難となるケースがあります。
■ 図の解説

この図は、腎代替療法(透析など)が必要となるリスクを、
腎機能(eGFR)と尿アルブミン(UACR)の組み合わせで示したものです。
リスクは「透析に至る確率」をチケットの枚数として表現しています。
■ 重要なポイント①
👉 腎機能が正常でもリスクは存在する
eGFRが正常(60以上)でも、尿アルブミンがわずかに(10-29mg/g)上昇するだけで
👉 すでにリスクは数倍(例:5.4倍)に増加
しています。
■ 重要なポイント②
👉 尿アルブミンは300で頭打ちではない
従来、「300 mg/g以上=重症」として一括りにされがちですが、
この図から分かるように
👉 尿アルブミンがさらに高値になるほど、リスクは連続的に上昇します。
例えば
- 300–999
- 1000以上
では
👉 透析リスクは
- 300–999→33倍
- 1000以上→103倍
とさらに大きく増加しています。
■ 重要なポイント③(最も重要)
👉 日本の保険制度とのギャップ
現在の日本の保険診療では
👉 尿アルブミンは主に糖尿病性腎症の評価として位置づけられており
さらに
👉 更に高度アルブミン尿(300以上)では継続的な評価が認められていない!
など、制度上の制約があります。
■ 何が問題か?
本来、尿アルブミンは
- 進行リスクの評価
- 治療効果の判定
- 予後予測
において、連続的に評価すべき最重要指標です。
しかし現状では、最もリスクの高い方ほど、詳細な評価が困難という構造的な問題があります。
■ 保険制度の問題点
尿アルブミンは「300で終わり」ではなく、その先もリスクは上がり続ける指標です。
しかし日本では、その重要な変化を十分に追えない制度上の課題があります。
👉 「最も危険な領域ほど、評価が不十分になりやすい」
■ これからの新しい考え方:pre-CKD
さらに重要な概念が提案されています。
👉 pre-CKD(前CKD)
これは、「まだCKDと診断されないが、将来高リスク」 という状態です。
糖尿病でいう「予備群」と同じ考え方になります。
■ 当クリニックの診療方針
当クリニックでは、「透析にならない医療」を目指し、以下を重視しています。
✔ 尿アルブミン検査の積極的実施(制度上の条件に配慮しながら、できる限り評価を行います)
✔ 血圧・脂質・血糖の総合管理
✔ 早期からの腎保護薬導入
✔ 生活習慣の最適化
■ まとめ
🟥 CKDは増えている(将来の主要死因)
🟧 透析間近では遅過ぎる
🟨 アルブミン尿が最重要
🟩 ABCDEで早期発見・早期管理
🟦 早期治療で透析は防げる
■ 最後に
世界ではABCDEアプローチによる透析予防が進んでいますが、日本ではその出発点である尿アルブミン検査が十分に行われておらず、予防の基本がまだ広く浸透していない現状があります。
👉 ABCDEアプローチと対比すると、日本では透析予防の“いろはのい”がまだ十分に実践されていない
👉 腎臓は「症状が出ない臓器」です
だからこそ、「検査しないと見つからない」そして「早く見つければ未来が変わる」病気です。
(文責:すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)