日本人は痩せているのになぜ糖尿病になりやすい?~脂肪組織オーバーフロー仮説(あふれ出る脂肪仮説)が示す「隠れた真実」~
■肥満の問題は「脂肪の量」より「置き場所」が重要
「糖尿病は太った人の病気」
そう思われている方は少なくありません。
しかし実際には、日本人では欧米人ほど太っていなくても
糖尿病になる人が多いことが知られています。
では、なぜ日本人はそれほど太っていないのに糖尿病になりやすいのでしょうか?
その答えを説明する有力な考え方が、
💡 脂肪組織オーバーフロー仮説(あふれ出る脂肪仮説)です。
🎨 (図解)なぜ日本人は太っていなくても糖尿病になりやすいの?
<欧米人>
食べ過ぎ・余ったエネルギー🍚🍜🍞🍺
↓
🏠大きな押し入れ(皮下脂肪)
🏗 太い柱(筋肉)
↓
😊まだ収納できる
↓
🟢内臓脂肪は少ない
<日本人>
食べ過ぎ・余ったエネルギー🍚🍜🍞🍺
↓
🏠 小さな押し入れ(皮下脂肪)
🏗 細い柱(筋肉)
↓
⚠️ オーバーフロー(脂肪のあふれ出し)
↓
🟧 内臓脂肪、肝脂肪、膵脂肪、心脂肪、腎脂肪
↓
🔴 糖尿病、脂肪肝、心不全、腎不全
🏠 皮下脂肪は「安全な押し入れ」
私たちが食べ過ぎたり運動不足になったりすると、余ったエネルギーは脂肪として蓄えられます。
この脂肪を収納する場所が皮下脂肪です。
皮下脂肪は見た目には気になるかもしれませんが、
実は余ったエネルギーを安全に保管する重要な役割を担っています。
家に例えるなら、皮下脂肪 = 押し入れです。
押し入れ(皮下脂肪)に荷物を収納している限り、家(体)の中は整頓され、生活に大きな支障はありません。
📦 押し入れには限界がある
しかし、押し入れには広さの限界があります。
2007年、カナダの脂質代謝研究者 Sniderman らは、
「南アジア人では、脂肪を安全に蓄える皮下脂肪の容量が比較的小さいため、脂肪が早い段階であふれ出してしまうのではないか」という仮説を提唱しました。
これが「脂肪組織オーバーフロー仮説」です。

この図は、
「肥満の問題は脂肪の量だけではなく、脂肪をどこに貯めているかにある」
という脂肪組織オーバーフロー仮説の考え方を示しています。
左の方では体重やBMIが低いにもかかわらず、安全な脂肪の貯蔵庫である表層(破線外側)皮下脂肪が少なく、内臓脂肪や深部皮下脂肪の割合が高い。
一方、右の方では体重やBMIが高いものの、表層皮下脂肪を多く蓄えることができています。
⚠️ あふれ出た脂肪はどこへ行く?
押し入れが満杯になると、荷物は部屋の中へあふれ出します。
体の中でも同じことが起こります。
皮下脂肪に入りきらなくなった脂肪は、
内臓脂肪、肝臓、膵臓、筋肉、心臓など、
本来脂肪をためる場所ではないところへ蓄積します。
これを異所性脂肪(ectopic fat)と呼びます。
🧠 TOFIという考え方
近年注目されている言葉にTOFI(Thin Outside, Fat Inside)があります。
これは、「見た目は細くても、内臓や肝臓には脂肪が蓄積している状態」を意味します。
BMIが正常でも安心とは限らないのです。
🔬 最近の研究で分かってきたこと
2023年に発表された大規模解析では、南アジア人は欧州人よりBMIが低いにもかかわらず、肝脂肪が多いことが示されました。
興味深いことに、男性では皮下脂肪もむしろ多かった一方でBMIは低いままでした。
これは、脂肪が多いにもかかわらず、その分を支える
筋肉(除脂肪量)が少ない可能性を示しています。

図の解説:
約7,000人を対象とした大規模メタ解析では、南アジア人は欧州系白人と比べて、同程度のBMIでも肝臓に脂肪が蓄積しやすいことが示されました。興味深いことに、内臓脂肪よりも肝脂肪の差が一貫して認められており、「肥満の程度」よりも「脂肪がどこに蓄積するか」が糖尿病リスクを左右する可能性が示されています。
🏗 日本人では「押し入れ」も「柱」も小さい?
近年では、日本人を含むアジア人では、
- 脂肪を収納する押し入れ(皮下脂肪)が比較的小さい
- エネルギーを消費する柱や壁(骨格筋)も欧米人ほど大きくない
可能性が指摘されています。
そのため、余ったエネルギーを十分に消費できず、
収納しきれなくなった脂肪が肝臓や内臓へあふれ出しやすくなるのです。
❤️ 本当に危険なのは「脂肪の量」より「脂肪の置き場所」
脂肪が肝臓や筋肉に蓄積すると、
🔴 インスリンが効きにくくなる
🔴 血糖値が上がる
🔴 脂肪肝が進行する
🔴 心臓や腎臓の働きが低下する
など、さまざまな代謝異常が起こります。
つまり問題は、「どれだけ太っているか」ではなく、「脂肪がどこに蓄積しているか」なのです。
🌱 幸い、あふれた脂肪は減らせる
良いニュースもあります。
内臓脂肪や肝脂肪などの異所性脂肪は比較的減りやすいことが分かっています。
実際には、体重の3〜5%程度の減量でも、
✅ 肝脂肪減少
✅ 内臓脂肪減少
✅ 血糖改善
が期待できます。
日々の食事改善や運動習慣は、家中に散らばった荷物を少しずつ片付ける作業に似ています。
📌 まとめ
日本人が欧米人ほど太っていなくても糖尿病になりやすい背景には、
「脂肪を安全に蓄える能力」と「筋肉量」の違いが関係している可能性があります。
肥満の問題は、脂肪の量だけではありません。
脂肪の置き場所が糖尿病や脂肪肝、心腎代謝疾患のリスクを大きく左右します。
🎯 Take Home Message
日本人は太りやすいのではありません。
脂肪を安全に収納する「押し入れ(皮下脂肪)」が比較的小さく、
エネルギーを消費する「柱や壁(筋肉)」も欧米人ほど大きくない。
そのため、余った脂肪が肝臓や内臓へあふれ出しやすいのです。
糖尿病リスクを決めるのは体重だけではありません。
「脂肪の量」よりも、「脂肪の置き場所」が重要なのです。
🌱 最後に
人それぞれ、
- 遺伝的な体質
- 骨格
- 筋肉量
- 脂肪を蓄える能力
は異なります。
大切なのは、
「欧米人と同じ量を食べられるか」ではなく、「自分の体が無理なく処理できる量を食べること」。
それが、日本人が糖尿病や脂肪肝を防ぐための最も大切な生活習慣です。
私たちの体には、生まれ持った「収納能力」と「処理能力」があります。
それを超えてしまうと、脂肪は行き場を失い、肝臓や内臓へあふれ出してしまいます。
だからこそ、
「何を食べるか」だけでなく「自分の体格や体質に合った量を食べること」が大切なのです。
体重計の数字だけに一喜一憂するのではなく、自分の体に合った食事と運動を続けること。
それこそが、糖尿病や脂肪肝を防ぐための最も確実な方法なのです。
(文責:すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)