【一般の方向け】最新米国高血圧ガイドラインを診療に活かすには?〜正しい血圧測定・家庭血圧・認知症予防まで〜
🟨 なぜ今、高血圧ガイドラインを知る必要があるのか?
最近、一部の週刊誌やインターネット記事などで、高血圧の治療について、専門的とは言い難い立場から不正確な情報が発信されているのを目にすることがあります。
たとえば、
「血圧は高くても下げなくてよい」
「降圧薬はできるだけ飲まない方がよい」
「自己判断で薬をやめてもよい」
といった内容が、あたかも医学的に確立した事実であるかのように紹介されることがあります。
しかし、高血圧は、脳卒中、心筋梗塞、心不全、腎不全、認知機能低下などにつながる重要な病気です。誤った情報をもとに治療を中断したり、必要な治療を避けたりすると、将来の大きな健康被害につながる可能性があります。
もちろん、すべての方に同じ血圧目標や同じ薬が必要なわけではありません。高齢の方、フレイルのある方、立ちくらみや転倒リスクが高い方では、血圧を下げすぎないよう慎重に治療する必要があります。
大切なのは、
「血圧を下げるべきか、どの程度まで下げるべきか、どの薬を使うべきか」
を、年齢、体力、合併症、腎機能、家庭血圧、生活習慣、将来の心血管リスクを含めて総合的に判断することです。
そのためには、個人の体験談や刺激的な記事ではなく、世界的な高血圧診療の基準や、専門家によるガイドラインの考え方を知っておくことが重要です。
本コラムでは、2025年米国高血圧ガイドラインの要点をもとに、一般の方にも分かりやすい形で、高血圧診療の現在の標準的な考え方を整理します。
🟦 高血圧は、脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎臓病だけでなく、認知症にも関わる重要な生活習慣病です。
高血圧は、自覚症状がほとんどないまま進むことが多く、「サイレントキラー」と呼ばれることがあります。
しかし、高血圧は早く気づき、正しく測り、生活習慣を見直し、必要に応じて薬で治療することで、将来の大きな病気を防ぐことができます。
2025年に米国で高血圧ガイドラインが改訂されました。日本の診療にそのまま当てはめるものではありませんが、日常の血圧管理に役立つ考え方が多く含まれています。
🧠 1. 高血圧は「認知症予防」の面からも大切です
高血圧というと、脳卒中や心筋梗塞を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、血圧が高い状態が長く続くと、脳の細い血管にも負担がかかり、記憶力や判断力の低下に関係することが2025年米国高血圧ガイドラインでも指摘されています。
脳の細い血管が傷むと、
🟨 脳の白質病変
🟨 小さな脳梗塞
🟨 脳の血流低下
🟨 認知機能の低下
などにつながることがあります。
また、アルツハイマー病などの認知症でも、脳の血管の障害が重なると、認知機能の低下が進みやすくなると考えられています。
🟦 軽度認知障害(MCI)とは?
軽度認知障害とは、年齢相応のもの忘れよりは進んでいるものの、日常生活はおおむね保たれている状態です。すべての方が認知症に進むわけではありませんが、認知症の前段階として注意が必要です。
2025年米国高血圧ガイドラインでは、高血圧のある成人では、軽度認知障害や認知症の予防という観点からも、収縮期血圧130 mmHg未満を目標にすることが推奨されています。
つまり、血圧管理は、
✅ 脳卒中を防ぐ
✅ 心筋梗塞を防ぐ
✅ 心不全を防ぐ
✅ 腎臓病を防ぐ
✅ 認知機能低下や認知症のリスクを下げる
ための、重要な予防医療です。
🟦 2. まず大切なのは「血圧を正しく測る」こと
高血圧診療の出発点は、正確な血圧測定です。
血圧は、測り方によって大きく変わります。診察室で急いで測った血圧、会話しながら測った血圧、腕の位置が低い状態で測った血圧は、実際より高く出ることがあります。
薬を始めるか、薬を増やすかを判断する前に、まずは「その血圧が正しく測られた値か」を確認することが大切です。
< 正しい血圧測定のポイント>
🪑 背もたれのある椅子に座る
🦶 足を床につけ、脚を組まない
💪 腕は心臓の高さに置く
📏 腕に合ったサイズのカフを使う
⏱ 測定前に数分間安静にする
🤫 測定中は会話をしない
☕ 測定前の喫煙、カフェイン、運動を避ける
🔁 可能であれば複数回測定して平均を見る
外来で最初に測った血圧が高くても、数分間落ち着いてから測り直すと低くなることは少なくありません。
🏠 3. 家庭血圧はなぜ重要なのか?
家庭血圧は、診察室血圧だけでは分からない血圧の特徴を知るためにとても重要です。
🏥 診察室では高いけれど、家では正常
➡これは 白衣高血圧 と呼ばれます。診察室で緊張して血圧が上がるタイプです。
🏠 診察室では正常だけれど、家では高い
➡これは 仮面高血圧 と呼ばれます。見逃されやすく、脳卒中や心筋梗塞のリスクにつながることがあります。
家庭血圧を記録することで、普段の血圧の状態が分かりやすくなります。また、ご自身で血圧の変化を確認することは、減塩、運動、服薬継続の意識づけにもつながります。
🟦 家庭血圧計のおすすめ
家庭血圧計は、原則として 上腕式 が勧められます。手首式やスマートウォッチ型の血圧測定は便利ですが、測定条件によって誤差が出やすいため、診療判断に使う場合は慎重さが必要です。

🟧 4. 米国ガイドラインでの血圧分類
米国ガイドラインでは、血圧をおおむね次のように分類しています。
| 分類 | 血圧の目安 |
| 🟩 正常血圧 | 収縮期血圧120 mmHg未満、かつ拡張期血圧80 mmHg未満 |
| 🟨 血圧上昇 | 収縮期血圧120〜129 mmHg、かつ拡張期血圧80 mmHg未満 |
| 🟧 ステージ1高血圧 | 収縮期血圧130〜139 mmHg、または拡張期血圧80〜89 mmHg |
| 🟥 ステージ2高血圧 | 収縮期血圧140 mmHg以上、または拡張期血圧90 mmHg以上 |
日本の高血圧基準とは異なる部分もありますが、重要なのは、血圧の数字だけでなく、背景にあるリスクを一緒に見ることです。
たとえば、同じ130台の血圧でも、糖尿病、腎臓病、脂質異常症、喫煙、肥満、睡眠時無呼吸症候群、心血管病の既往がある方では、より注意が必要です。
🧭 5. フローチャートの見方:血圧の段階とリスクで対応を変える

血圧管理では、まず診察室血圧を正しく測り、血圧の段階を確認します。
🟩 正常血圧・血圧上昇の場合
生活習慣の見直しが基本です。
✅ 適正体重を目指す
✅ 減塩
✅ 運動
✅ バランスのよい食事
✅ 節酒または禁酒
✅ 睡眠の確認
血圧が高めの状態が続く場合は、3〜6か月後に再評価します。
🟧 ステージ1高血圧の場合
血圧の数字だけでなく、将来の心血管疾患リスクを確認します。
確認する主なポイントは、
✅ 心筋梗塞・脳卒中などの既往
✅ 糖尿病
✅ 慢性腎臓病
✅ 脂質異常症
✅ 喫煙
✅ 肥満、内臓脂肪、脂肪肝
✅ 睡眠時無呼吸症候群
✅ 家族歴
✅ 10年心血管疾患リスク
です。
リスクが高い場合は、生活習慣改善に加えて薬物治療を検討します。リスクが高くない場合は、まず生活習慣改善と家庭血圧の確認を続けます。
🟥 ステージ2高血圧の場合
ステージ2高血圧では、生活習慣改善だけでなく、薬物治療の開始が基本になります。
米国ガイドラインでは、原則として、異なる作用をもつ2種類の第一選択薬を用いた治療開始が推奨されています。可能であれば、1錠にまとめた配合薬を使うことで、飲み忘れを減らしやすくなります。
ただし、すべての方に最初から同じ強さの治療を行うわけではありません。
高齢の方、フレイルのある方、立ちくらみや転倒リスクが高い方、腎機能が低下している方では、血圧が下がりすぎないように注意が必要です。
このような場合には、低用量の単剤から慎重に開始し、血圧、ふらつき、腎機能、電解質などを確認しながら調整します。
🧪 6. 高血圧で確認する検査
高血圧では、血圧だけでなく、心臓、腎臓、血管、ホルモン異常などを確認することが大切です。
主に次のような検査を行います。
🩸 血算
🧂 ナトリウム、カリウム、クロール
🧪 尿素窒素、クレアチニン、eGFR
🍬 血糖、HbA1c
🧈 脂質検査
🧫 肝機能
🚻 尿検査、尿タンパク
❤️ 心電図
必要に応じて、胸部X線、心エコー、頸動脈エコー、ABIなどを行います。
また、肥満、日中の眠気、いびき、夜間頻尿、早朝高血圧、薬を使っても下がりにくい高血圧がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の評価も重要です。
< 睡眠時無呼吸症候群とは?>
睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりする病気です。高血圧、糖尿病、心房細動、心不全などとも関係し、重症の場合は夜間の突然死リスクが2.6倍に高まるという大規模な研究データも報告されています。特に、治療しても血圧が下がりにくい方では見逃さないことが大切です。
🟪 7. PREVENTとは?日本人では慎重な解釈が必要
米国ガイドラインでは、PREVENTという心血管疾患リスク評価ツールが使われています。
PREVENTは、年齢、性別、血圧、脂質、糖尿病、腎機能などをもとに、今後10年間に心筋梗塞や脳卒中などを起こすリスクを推定する方法です。
米国では、ステージ1高血圧であっても、心血管病、糖尿病、慢性腎臓病、または10年リスクが高い場合には、薬物治療を検討します。
ただし、PREVENTは米国のデータをもとに作られたものです。日本人とは、体格、食事、肥満の程度、脳卒中と心筋梗塞の割合、医療環境などが異なります。そのため、日本人にそのまま使うことは難しく、参考情報の一つとして考える必要があります。
日本では、冠動脈疾患のリスク評価として久山町スコアや吹田スコアが用いられてきました。また、日本動脈硬化学会は、動脈硬化性疾患発症予測ツールを公開しています。
ただし、これらのリスク評価も、近年増えている肥満、内臓脂肪、脂肪肝、筋肉量低下、睡眠時無呼吸症候群などを十分に反映しきれない可能性があります。
<今後の課題>
日本人の現在の体格や生活習慣に合った、新しいリスク評価法の開発が期待されます。
🟩 8. 生活習慣改善:減塩・体重管理・運動・飲酒・カリウム
生活習慣の改善は、どの段階の血圧でも基本です。
🧂 減塩
日本人は食塩摂取量が多くなりやすいため、減塩はとても重要です。
塩分が多くなりやすいものには、
🍜 麺類の汁
🥒 漬物
🍱 外食・惣菜
🥓 加工食品
🧴 しょうゆ、みそ、ソース
があります。
〇 今日からできる工夫
✅ つけ麺にする
✅ しょうゆは「かける」より「つける」
✅ 漬物や汁物はどちらかを1日1食まで
✅ 減塩調味料、酢、香辛料、出汁、ブイヨンを活用する
⚖️ 体重管理
脂肪が増えると血圧も上がりやすくなります。
特に内臓脂肪が増えると、
🟧 糖尿病
🟧 脂質異常症
🟧 脂肪肝
🟧 睡眠時無呼吸症候群
を合併しやすくなります。
体重を少し減らすだけでも、血圧の改善につながることがあります。
🚶 運動
無理なく続けられる運動が大切です。
✅ ウォーキング
✅ 軽い筋力トレーニング
✅ ストレッチ
✅ 階段を使う
✅ こまめに立ち上がる
✅ 座りっぱなしを避ける
🍺 飲酒
2025年米国ガイドラインでは、血圧管理の観点からは、飲酒しないことが最も望ましいとされています。
毎日飲酒している方は、
✅ 量を減らす
✅ 休肝日を作る
✅ 寝酒をやめる(安全な眠剤を活用する)
✅ 飲酒習慣を記録する
など、できることから始めましょう。
🥦 カリウム
野菜、豆類、いも類、果物などに含まれるカリウムは、血圧を下げる方向に働くことがあります。
ただし、腎臓の機能が低下している方や、カリウムが高い方では注意が必要です。カリウムのサプリメントは自己判断で使わず、主治医に相談してください。
💊 9. 高血圧の薬物治療
高血圧の第一選択薬には、主に次の薬があります。
✅ ACE阻害薬またはARB
✅ カルシウムチャンネル遮断薬
✅ サイアザイド系利尿薬
ステージ1高血圧では、年齢、合併症、腎機能、血清カリウム、飲みやすさなどを考えて薬を選びます。
ステージ2高血圧では、原則として2種類の薬を組み合わせて開始することが推奨されています。可能であれば配合薬を使うことで、錠数を減らし、飲み忘れを減らすことが期待できます。
一方で、最初から3種類の薬を標準的に使うわけではありません。急に血圧が下がりすぎると、ふらつき、転倒、腎機能悪化、電解質異常などのリスクがあります。
そのため、まず2剤から開始し、目標血圧に届かない場合に3剤目を追加する、という段階的な治療が基本です。
🧪 10. 原発性アルドステロン症を見逃さない
高血圧の中には、生活習慣だけでなく、ホルモン異常が原因になっているものがあります。
代表的なものが、原発性アルドステロン症です。
これは、副腎からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌され、血圧が上がる病気です。
以前は、カリウムが低い高血圧で疑われることが多い病気でした。しかし、実際にはカリウムが正常でも見つかることがあります。
🔍 検査を考えることがある方
✅ 血圧がかなり高い方
✅ 薬を使っても血圧が下がりにくい方
✅ 若い頃から高血圧がある方
✅ カリウムが低い方
✅ 睡眠時無呼吸症候群がある方
✅ 副腎に腫瘤を指摘された方
「なかなか血圧が下がらない」ときは、薬を増やすだけでなく、原因を調べることも大切です。
🚨 11. 血圧が非常に高いとき、すぐ下げればよい?
血圧が非常に高いと、不安になって「すぐに下げなければ」と思うかもしれません。
しかし、症状や臓器障害がない場合に、急激に血圧を下げることはかえって危険なことがあります。
🚑 すぐに受診が必要な症状
🚨 胸痛
🚨 息切れ
🚨 手足の麻痺
🚨 ろれつが回らない
🚨 意識がぼんやりする
🚨 視力障害
🚨 激しい頭痛
🚨 急な腎機能悪化
このような症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。
一方で、症状がなく血圧だけが高い場合は、まず落ち着いて再測定し、医療機関に相談しながら治療方針を決めることが大切です。
⚠️ 注意
自己判断で余っている降圧薬を多く飲んだり、頓服薬で急に下げようとしたりすることは避けてください。
🤰 12. 妊娠前・妊娠中の高血圧にも注意
妊娠前から高血圧がある方、または妊娠20週未満から高血圧を認める方では、母体と赤ちゃんの安全のために血圧管理が重要です。
妊娠中に使える降圧薬は限られます。
🤰 妊娠を希望している方
🤰 妊娠の可能性がある方
🤰 妊娠中に血圧が高い方
は、自己判断で薬を中止せず、早めに主治医へ相談してください。
🟦 まとめ~高血圧は「血管・心臓・腎臓・脳を守る」ための治療です~
最新米国高血圧ガイドラインから学べるポイントは、次の5つです。
✅ 1. 血圧は正しく測る
測り方が不適切だと、治療判断を誤ることがあります。
✅ 2. 家庭血圧を活用する
白衣高血圧や仮面高血圧を見つけるためにも重要です。
✅ 3. 血圧の数字だけでなく、将来のリスクを見る
糖尿病、腎臓病、肥満、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群なども含めて評価します。
✅ 4. 認知症予防の視点も大切
高血圧は脳の細い血管に影響し、軽度認知障害や認知症のリスクに関係します。
✅ 5. 治療は一人ひとりに合わせる
ステージ2高血圧では原則として早期治療が重要ですが、高齢の方やフレイルのある方では、過降圧を避けながら慎重に治療します。
高血圧は、単に血圧の数字を下げる病気ではありません。
将来の脳卒中、心筋梗塞、心不全、腎不全、そして認知機能低下を防ぐための、もっとも基本的で重要な予防医療です。
(文責:すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)