【医療関係者の方向け】最新米国高血圧ガイドラインを診療に活かすには?~血圧測定、家庭血圧、心血管リスク評価、認知症予防を含めて~
高血圧は、脳卒中、冠動脈疾患、心不全、慢性腎臓病の主要な修正可能リスク因子である。近年はこれらの心血管・腎アウトカムに加え、軽度認知障害(MCI)および認知症リスクとの関連も重視されている。
2025年米国高血圧ガイドラインでは、単に血圧値を分類して治療するだけでなく、正確な血圧測定、家庭血圧の活用、心血管疾患リスクに基づく治療開始判断、早期からの併用療法、二次性高血圧のスクリーニング、認知症予防を含めた包括的管理が強調されている。
本稿では、同ガイドラインの要点を、日常診療での活用を念頭に整理する。
1. 高血圧管理は認知症予防の観点からも重要である
高血圧は、脳小血管病(cerebral small vessel disease)を介して、白質病変、ラクナ梗塞、脳微小出血などを増やし、認知機能低下や認知症リスクに関与する。アルツハイマー病を含む認知症においても、血管性病変が併存することは少なくなく、血圧管理は認知症予防の観点からも重要である。
2025年米国高血圧ガイドラインでは、高血圧を有する成人に対して、MCIおよび認知症リスク低減の観点からも、収縮期血圧130 mmHg未満を目標とすることが推奨されている。
RCTおよびメタ解析では、降圧治療による認知症発症リスク低下が示唆されており、特に中年期からの血圧管理が重要と考えられる。SPRINT-MINDでは、厳格降圧群においてMCIリスク低下が示され、追跡期間後も一定の持続的効果が報告されている。一方で、過降圧による有害事象にも注意が必要であり、とくに高齢者、フレイル、起立性低血圧、転倒リスク、腎機能低下を有する症例では個別化が必要である。
2. 診察室血圧は「正しく測定された値」かをまず確認する
高血圧診療の出発点は、正確な血圧測定である。不適切な測定条件下で得られた血圧値をもとに治療開始・増量を判断すると、過剰治療または治療不足につながる。
診察室血圧測定では、以下を標準化する必要がある。
・背もたれのある椅子に座る
・足底を床につけ、脚を組まない
・上腕を心臓の高さに保持する
・適切なカフサイズを選択する
・測定前に数分間安静とする
・測定中の会話を避ける
・測定前の喫煙、カフェイン摂取、運動を避ける
・可能であれば複数回測定し平均値を用いる
外来初回測定値が高値であっても、安静後再測定により低下することは多い。薬物治療の開始・増量前には、診察室血圧の再測定、家庭血圧、必要に応じて自由行動下血圧測定を組み合わせ、白衣高血圧および仮面高血圧を評価する。
3. 家庭血圧測定は診断・治療評価・アドヒアランス向上に有用である
家庭血圧測定は、白衣高血圧、仮面高血圧、治療抵抗性高血圧の評価に有用である。また、患者自身が血圧変動を可視化することで、生活習慣改善や服薬継続への動機づけにもつながる。
家庭血圧計は、原則として上腕式を用いる。手首式やカフレスデバイスは、条件により測定誤差が大きくなりやすく、現時点では診療判断の中心に据えるには慎重である。
家庭血圧は、測定条件を統一し、朝・夜の複数日測定の平均値を用いることが望ましい。診察室血圧と家庭血圧が乖離する場合には、白衣高血圧、仮面高血圧、服薬アドヒアランス、測定手技、二次性高血圧を含めて再評価する。

4. 米国ガイドラインにおける血圧分類
米国ガイドラインでは、血圧を以下のように分類する。
| 分類 | 血圧の目安 |
| 正常血圧 | 収縮期血圧120 mmHg未満、かつ拡張期血圧80 mmHg未満 |
| 血圧上昇 | 収縮期血圧120〜129 mmHg、かつ拡張期血圧80 mmHg未満 |
| ステージ1高血圧 | 収縮期血圧130〜139 mmHg、または拡張期血圧80〜89 mmHg |
| ステージ2高血圧 | 収縮期血圧140 mmHg以上、または拡張期血圧90 mmHg以上 |
この分類は日本の高血圧治療ガイドラインと完全には一致しないが、130/80 mmHg以上を「軽症」として一律に経過観察するのではなく、背景リスクに応じて治療介入を判断する点は重要である。
5. フローチャートの臨床的読み方

診療では、まず診察室血圧を適切に測定し、正常血圧、血圧上昇、ステージ1高血圧、ステージ2高血圧に分類する。
正常血圧または血圧上昇では、生活習慣改善を基本とする。体重管理、減塩、運動、食事パターンの改善、節酒または禁酒、睡眠評価を行い、血圧上昇が持続する場合には3〜6か月後に再評価する。
ステージ1高血圧では、血圧値のみで薬物治療を決定せず、以下のリスクを確認する。
・既存の心血管疾患
・糖尿病
・慢性腎臓病
・脂質異常症
・喫煙
・肥満、内臓脂肪蓄積、脂肪肝
・睡眠時無呼吸症候群
・家族歴
・10年心血管疾患リスク
心血管リスクが高い場合には、生活習慣改善に加えて薬物療法を検討する。リスクが高くない場合には、まず生活習慣改善と家庭血圧によるフォローを行う。
ステージ2高血圧では、生活習慣改善に加えて薬物治療開始が基本である。米国ガイドラインでは、原則として異なる作用機序をもつ2種類の第一選択薬による治療開始が推奨され、可能であれば配合薬を用いることが望ましいとされる。
ただし、高齢者、フレイル、立ちくらみ・転倒リスク、起立性低血圧、腎機能低下、ポリファーマシーを有する症例では、過降圧を避けるため、低用量の単剤から慎重に開始することも重要である。したがって、ステージ2高血圧であっても、すべての症例に同一の初期治療強度を適用するのではなく、患者背景に応じた個別化が必要である。
6. 初期評価で確認すべき検査項目
高血圧の初期評価では、臓器障害、二次性高血圧、心血管リスクを把握する。
実臨床では以下を確認する。
・血算
・血清Na、K、Cl
・尿素窒素、クレアチニン、eGFR
・空腹時血糖またはHbA1c
・脂質プロファイル
・AST、ALT、γ-GTなど肝機能
・尿検査、尿タンパク
・心電図
・必要に応じて胸部X線、心エコー、頸動脈エコー、ABIなど
TSHは全例スクリーニング項目として必須ではなく、臨床的に甲状腺疾患が疑われる場合に検討する。尿アルブミンは我が国の保険診療では糖尿病の一部のみでしか適応が認められていない。一般的な初期スクリーニングとしては尿タンパクを用いる方が実装しやすい。
また、肥満、日中の眠気、いびき、夜間頻尿、早朝高血圧、治療抵抗性高血圧を認める場合には、睡眠時無呼吸症候群の評価を行う。高血圧患者では睡眠時無呼吸症候群の合併頻度が高く(約30% 〜 50%)、特に肥満、治療抵抗性高血圧、夜間・早朝高血圧では積極的なスクリーニングが望ましい(合併割合:約70% 〜 85%)。
7. PREVENTによるリスク評価と日本人診療での限界
2025年米国高血圧ガイドラインでは、PREVENTを用いた10年心血管疾患リスク評価が治療判断に組み込まれている。PREVENTは、年齢、性別、血圧、脂質、糖尿病、腎機能(eGFR/尿アルブミン)などをもとに、心血管疾患発症リスクを推定するツールである。
米国ガイドラインでは、ステージ1高血圧であっても、既存心血管疾患、糖尿病、慢性腎臓病、または10年心血管疾患リスク高値を認める場合には、薬物療法を検討する。
ただし、PREVENTは米国集団をもとに開発されたリスク評価であり、日本人にそのまま適用することは困難である。人種・民族、食塩摂取、肥満度、脳卒中と冠動脈疾患の比率、医療アクセス、治療状況が異なるため、日本人診療では参考情報の一つとして位置づけるべきである。
日本では、冠動脈疾患リスク評価として久山町スコア、吹田スコアなどが用いられてきた。現在は、日本動脈硬化学会が動脈硬化性疾患発症予測ツールを公開しており、冠動脈疾患やアテローム血栓性脳梗塞の10年リスク評価に基づく脂質管理目標設定に活用されている。
一方で、従来のリスク評価は、近年増加している肥満、内臓脂肪、脂肪肝、サルコペニア肥満、睡眠時無呼吸症候群などの代謝リスクを十分に反映しにくい。今後は、現代の日本人の体格・代謝背景を反映した新たな心血管疾患リスク評価法の開発が求められる。
8. 生活習慣介入:減塩、体重管理、運動、飲酒、カリウム
生活習慣改善は、すべての血圧カテゴリーで基本となる。
減塩は降圧効果が明確であり、日本人では食塩摂取量が多いことから特に重要である。外食、加工食品、麺類、漬物、汁物、調味料の使用頻度を確認し、実行可能な減塩目標を設定する。
体重管理も重要である。内臓脂肪蓄積は、インスリン抵抗性、糖尿病、脂質異常症、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群と関連し、高血圧の背景因子となる。体重減少により血圧低下が期待できるため、肥満症を有する症例では体重管理を治療戦略に組み込む。
運動療法では、有酸素運動に加え、筋力トレーニングや座位時間の短縮も考慮する。高齢者では転倒予防、フレイル予防、サルコペニア対策も含め、実施可能なバランス運動など運動処方が必要である。
飲酒については、2025年米国ガイドラインでは血圧管理の観点から禁酒が最も望ましいとされている。少なくとも飲酒量を減らす介入は、高血圧管理において重要である。
カリウム摂取は血圧低下に寄与しうるが、CKD、RA系阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬使用例では高カリウム血症に注意する。カリウムサプリメントは自己判断で用いるべきではなく、腎機能と血清カリウム値を踏まえて判断する。
9. 薬物療法:第一選択薬と初期併用療法
第一選択薬は、ACE阻害薬またはARB、カルシウムチャンネル遮断薬、サイアザイド系利尿薬である。
ステージ1高血圧では、心血管リスク、合併症、年齢、腎機能、血清電解質、服薬アドヒアランスを踏まえ、これらのいずれかから開始を検討する。
ステージ2高血圧では、原則として異なる作用機序をもつ2種類の第一選択薬で治療を開始する。可能であれば配合薬を用いることで、錠数を減らし、アドヒアランス向上が期待できる。
一方、初期から3剤併用を標準としない理由は、急激な血圧低下、ふらつき、転倒、急性腎障害、電解質異常などのリスクがあるためである。2剤併用から開始し、目標血圧に達しない場合に3剤目を追加する段階的アプローチが基本となる。
治療抵抗性高血圧では、適切な3剤併用、すなわちRA系阻害薬、カルシウムチャンネル遮断薬、利尿薬を含む治療が行われているか、服薬アドヒアランス、白衣効果、睡眠時無呼吸症候群、原発性アルドステロン症、腎血管性高血圧などを確認する。そのうえで、必要に応じてミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の追加を検討する。
10. 原発性アルドステロン症を積極的に疑う
原発性アルドステロン症は、頻度の高い二次性高血圧であり、心血管・腎リスクが高い。低カリウム血症を伴わない症例も多いため、血清カリウム正常を理由に除外すべきではない。
スクリーニングを検討すべき症例は以下である。
・ステージ2高血圧
・治療抵抗性高血圧
・低カリウム血症を伴う高血圧
・若年発症高血圧
・副腎偶発腫を伴う高血圧
・睡眠時無呼吸症候群を伴う高血圧
・脳卒中の若年発症または家族歴を有する高血圧
治療抵抗性高血圧では、血清カリウム値にかかわらず原発性アルドステロン症の評価を行うことが重要である。
11. 重症高血圧と高血圧緊急症を区別する
著明な血圧上昇を認めても、急性標的臓器障害がなければ、急激な降圧は原則として避ける。従来の“hypertensive urgency”という概念は見直され、症状や臓器障害の有無に基づいて対応することが重要である。
胸痛、呼吸困難、神経脱落症状、意識障害、視力障害、急性腎障害、急性心不全、大動脈解離が疑われる場合には、高血圧緊急症として速やかに評価・治療を行う。
一方、症状がなく血圧のみが高度上昇している場合には、測定条件を確認し、安静後再測定を行い、経口薬の調整と短期フォローで対応する。頓服降圧薬や静注降圧薬による急激な降圧は、脳・心・腎灌流低下を招く可能性がある。
12. 妊娠前・妊娠中の高血圧管理
妊娠前から高血圧を有する症例、または妊娠20週未満から高血圧を認める症例では、母体および胎児リスクを考慮した血圧管理が必要である。
米国ガイドラインでは、妊娠前または妊娠20週未満から高血圧を認める症例では、140/90 mmHg未満を目標に薬物療法を行うことが推奨されている。
妊娠可能年齢の女性では、RA系阻害薬の使用、妊娠希望、避妊状況を確認し、妊娠時に使用可能な薬剤への切り替えを含めて早期に対応する。
まとめ
2025年米国高血圧ガイドラインの臨床的意義は、以下の点に集約される。
第一に、血圧測定の標準化と家庭血圧の活用を通じて、正確な診断と治療評価を行うこと。
第二に、血圧値だけでなく、心血管疾患、糖尿病、慢性腎臓病、肥満、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群、認知症リスクを含めた包括的リスク評価を行うこと。
第三に、ステージ2高血圧では、原則として早期から2剤併用、可能であれば配合薬を用いる一方、高齢者やフレイル症例では過降圧を避け、低用量単剤から慎重に開始するなど個別化すること。
第四に、原発性アルドステロン症、睡眠時無呼吸症候群、CKDなど、治療抵抗性高血圧の背景因子を積極的に評価すること。
第五に、高血圧管理を脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎不全の予防だけでなく、MCIや認知症予防を含む包括的な予防医療として位置づけること。
米国のPREVENTは日本人にそのまま適用することは困難であり、日本の既存リスクスコアにも現代的な代謝リスクを十分に反映しにくい限界がある。今後、日本人の肥満、内臓脂肪、脂肪肝、サルコペニア、睡眠時無呼吸症候群を含めた新たなリスク評価法の開発が期待される。
高血圧診療は、単に血圧値を下げる診療ではない。将来の血管イベント、心不全、腎不全、認知機能低下を予防するための、最も基本的かつ重要な介入である。
(文責:すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)