(NEW)HbA1c低下をサポートする?「MI-2乳酸菌」とは?
最近、「高めのHbA1cの低下をサポートする」と表示されたヨーグルトが販売されています。商品サイトでは「12週間の継続摂取でHbA1cが0.1%低下」と紹介されています。
しかし、根拠となった研究を確認し、広告で示されている「0.1%低下」が何を表す数字なのか、対照群の結果も含めて理解する必要があります。
| 広告の「0.1%低下」は、対照群との差ではありません。 両群の平均変化量を単純に差し引くと、その差は0.05ポイントでした。 |
これは各群の平均値から算出した単純差であり、個々の人に0.05ポイントの効果が期待できるという意味ではありません。
■まず知っておきたいこと
この商品は医薬品ではなく「機能性表示食品」です。企業が安全性・機能性の根拠を消費者庁へ届け出ることで一定の表示ができますが、国が商品ごとに効果を審査し、医薬品のように承認したものではありません。
| 機能性表示食品 = 国が効果を保証した食品、ではありません。 |
また、糖尿病の治療や予防を目的とした食品でもありません。すでに糖尿病と診断されている方が、治療の代わりに利用するものではありません。
■MI-2 乳酸菌とは?
MI-2乳酸菌は、Lactobacillus plantarum OLL2712株という乳酸菌です。商品に使用されているのは、腸内で増える生きた菌ではなく、加熱処理された菌体です。
企業の研究では、加熱菌体が慢性炎症に関係する免疫反応へ作用し、インスリン抵抗性の悪化を抑える可能性が検討されています。しかし、人での作用の大きさや、長期的に糖尿病を予防できるかどうかは確立していません。
■根拠となった研究
根拠となったのは、2020年に医学誌『Nutrients』へ発表されたランダム化比較試験です。空腹時血糖100~125mg/dL、HbA1c 5.6~6.4%の成人130人を、通常ヨーグルト群とOLL2712ヨーグルト群に分け、1日1個を12週間摂取してもらいました。最終解析は126人でした。
論文では「健康な成人」と表現されていますが、空腹時血糖100~125mg/dLは、医学的には空腹時血糖異常、いわゆる糖尿病予備群に重なる範囲です。
この研究は、通常ヨーグルトを対照としたランダム化二重盲検比較試験として実施されており、研究方法には一定の強みがあります。一方、対象者数、12週間という期間、変化量の小ささ、ほかの代謝指標との不一致などから、結果の臨床的意義は慎重に判断する必要があります。
<実際のHbA1cの変化>
| グループ | 開始時 | 4週 | 8週 | 12週 | 12週間の変化 |
| 通常ヨーグルト群 | 5.85% | 5.79% | 5.89% | 5.78% | −0.07ポイント |
| OLL2712群 | 5.86% | 5.82% | 5.89% | 5.74% | −0.12ポイント |
OLL2712群ではHbA1cが0.12ポイント低下しました。広告の「0.1%低下」は、この群の開始前後の変化を示したものです。
しかし、通常ヨーグルト群でも0.07ポイント低下しています。したがって、両群の平均変化量を単純に差し引くと、差は0.05ポイントです。
| 0.12 − 0.07 = 0.05ポイント |
※この単純差の全てがOLL2712株の効果であると断定するものではありません。
群平均の差を数値で表すと0.05ポイントですが、個々の人のHbA1cが同じ幅だけ低下することを意味しません。また、統計学的に有意でも、その差が糖尿病発症や合併症の予防につながることは示されていません。
■HbA1cは順調に下がり続けたわけではない
両群とも、4週で低下、8週で上昇、12週で再び低下という、よく似た推移を示しました。OLL2712群だけが摂取期間に応じて一貫して改善したわけではありません。
| 通常群:5.85 → 5.79 → 5.89 → 5.78% OLL2712群:5.86 → 5.82 → 5.89 → 5.74% |
対照群でも低下した理由として、平均への回帰、試験参加による生活習慣の変化、季節変動、検査値の自然変動、ヨーグルト自体や食品の置き換えによる影響などが考えられますが、研究では明確に説明されていません。
■両群で認められた体重・血圧の上昇
研究結果を解釈するうえで、もう一つ確認しておく必要があるのが、12週間後に両群とも体重、BMI、血圧が有意に上昇していたことです。
| 指標 | 通常ヨーグルト群 | OLL2712群 |
| 体重 | 69.4 → 70.3kg(+0.9kg) | 69.1 → 69.8kg(+0.7kg) |
| BMI | 24.9 → 25.2kg/m2 | 24.7 → 25.0 kg/m2 |
| 収縮期血圧 | 123.3 → 128.3mmHg | 126.6 → 133.1mmHg |
| 拡張期血圧 | 74.4 → 79.7mmHg | 77.4 → 82.0mmHg |
| 要点 | 体重・血圧とも有意上昇 | 体重・血圧とも有意上昇 |
論文の考察では、両群に認められた体重増加と血圧上昇について、明確な原因説明は示されていません。
両群に共通して起きているため、乳酸菌固有の作用ではなく、試験期間中の共通要因が考えられます。
■考えられる共通要因
- 試験が7月から12月に行われ、夏から冬への季節変動を受けた可能性がありますが、研究で確認された原因ではありません。
- 試験食品を普段の食品と置き換えず追加していた場合には、摂取エネルギーが増えた可能性があります。ただし、この研究からヨーグルト摂取が体重増加の原因だったと断定することはできません
- 運動量、食事量、塩分摂取量、測定時の室温など、十分に把握されていない生活・測定条件
試験ヨーグルト由来の栄養摂取量は食事解析に含まれていません。そのため、「食事摂取量に変化はなかった」とされても、ヨーグルトを追加した影響を十分に評価できていない可能性があります。
| 体重、BMI、血圧がいずれも上昇する一方で、HbA1cは低下していました。 そのため、代謝状態全体が一貫して改善した結果とは解釈しにくいと考えます。 |
■インスリン抵抗性は改善したのか
空腹時インスリンは、通常ヨーグルト群だけでなくOLL2712群でも上昇していました。通常群ではインスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなる状態)を示すHOMA-IRも有意に上昇しています。
著者らは「通常群ではHOMA-IRが悪化したが、OLL2712群では有意な悪化がなかった」と説明しています。しかし、「一方で有意、もう一方で非有意」というだけでは、両群間に有意差があることにはなりません。必要なのは、変化量を両群で直接比較した群間差です。
したがって、この研究からOLL2712株がインスリン抵抗性を改善したと断定することはできません。
■HbA1c低下とインスリン上昇は両立する
インスリンが効きにくくなっても、膵臓がより多くのインスリンを分泌すれば、一定期間は血糖を低く保てます。そのため、HbA1cが下がる一方で空腹時インスリンが増えることは起こり得ます。
つまり、HbA1cがわずかに下がっただけで、インスリン抵抗性の改善、膵臓の負担軽減、糖尿病になりにくい体質への変化を意味するわけではありません。
■この研究で示されていないこと
- 糖尿病の治療効果
- 糖尿病治療薬を減らせる効果
- 食事療法や運動療法の代替効果
- 糖尿病発症の予防効果
- 心筋梗塞、腎臓病、網膜症などの合併症予防効果
- 長期摂取による持続的な効果
空腹時血糖についても、研究全体では明確な群間改善が示されていません。75gブドウ糖負荷試験、食後血糖、持続血糖測定、糖尿病発症率などによる裏づけもありません。
■研究をどう受け止めるべきか
研究の筆頭著者を含む複数の著者は、商品を開発した企業の研究部門に所属しています。企業研究であること自体が問題なのではありませんが、独立した研究機関による再現、より大規模で長期の検証、糖尿病発症や合併症への効果の確認が必要です。
ヨーグルト自体は、たんぱく質やカルシウムを含む食品です。菓子や甘いデザートの代わりに無糖・低糖のヨーグルトを選ぶことには意味があります。しかし、それと「特定の乳酸菌がHbA1cを下げる」という主張は分けて考える必要があります。
■健康食品の広告を見る5つのポイント
- 「下がった」と書かれていても、実際にどのくらい下がったかを見る。
- 摂取前後の変化だけでなく、対照群との差を見る。
- 健康な人、糖尿病予備群、糖尿病の人のどれを対象にした研究か確認する。
- 対象人数と研究期間を確認する。
- 検査値が少し変わっただけか、病気や合併症を本当に減らしたかを区別する。
■まとめ
| 広告の「HbA1c 0.1%低下」は、OLL2712群の開始前後の変化です。 両群の平均変化量を単純に差し引いた差は、約0.05ポイントでした。 |
- 通常ヨーグルト群でもHbA1cは0.07ポイント低下していた
- HbA1cは両群とも8週でいったん上昇していた
- 両群で体重が0.7~0.9kg増加した
- 両群で収縮期血圧が約5~7mmHg、拡張期血圧が約5mmHgも上昇した
- 空腹時インスリンは両群で増加した
- インスリン抵抗性の明確な改善は示されていない
- 糖尿病の治療・予防効果や長期的な健康効果は確認されていない
体重、BMI、血圧、空腹時インスリンがいずれも上昇する一方で、HbA1cは低下していました。
そのため、代謝状態全体が一貫して改善した結果とは解釈しにくいと考えます。
ヨーグルトを食品として楽しむことに問題はありません。しかし、「HbA1c対策」「低下をサポート」「12週間で0.1%低下」という言葉から、糖尿病治療に近い効果を想像しないことが大切です。
| HbA1cが高めなら、健康食品だけに期待せず、血糖状態を正しく評価し、 食事・運動・体重・睡眠・飲酒・喫煙などを総合的に見直しましょう。 |
糖尿病が疑われる数値であれば、健康食品を選ぶ前に、まず医療機関へ相談してください。
※本コラムは、当該商品や企業の違法性、不正行為、商品の安全性上の問題を指摘するものではありません。公開された広告表示と研究論文をもとに、確認された効果の大きさと研究上の限界を医学的に解説するものです。
■参考文献
1. Toshimitsu T, Gotou A, Sashihara T, et al. Effects of 12-Week Ingestion of Yogurt Containing Lactobacillus plantarum OLL2712 on Glucose Metabolism and Chronic Inflammation in Prediabetic Adults: A Randomized Placebo-Controlled Trial. Nutrients. 2020;12:374.
2. 株式会社明治「明治ヘモグロビンA1c対策ヨーグルト」
3. 消費者庁「機能性表示食品について」
2026年6月16日時点の公開情報に基づく
(文責:すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)