食べないようにしている。大したものは食べていない。けど、体重が減らない!その背景にある“見えない摂取”と“フードノイズ”
「食べないように気をつけています」
「大したものは食べていません」
「それなのに、なぜ体重が減らないのでしょうか?」
肥満症や糖尿病の診療では、このような言葉を耳にすることがあります。
医療者から見ると、本人が意識していない摂取があるのではないかと思えることもあります。しかし、故意に食べた量を少なく伝えているとは限りません。多くの場合、ご本人も本当に「自分はあまり食べていない」と感じています。
なぜ、本人の感覚と体重の変化が一致しないのでしょうか。その背景には、記憶に残りにくい“見えない摂取”と、食べ物のことが頭から離れない“フードノイズ”が関係していることがあります。
| ◎このコラムのポイント ● 小さな間食や飲み物は「食事」と認識されにくく、記憶や記録から抜けることがあります。 ● フードノイズは、食べ物に関する思考が頭から離れない状態であり、単なる意志の弱さではありません。 ● 体重が減らない理由は一つではありません。摂取、体重変動、生活、薬剤、体調を一緒に見える化することが大切です。 |
■なぜかお菓子が記録から消える「ブラウニーの謎」
人は、自分が食べた量を正確に把握することが意外に苦手です。特に、食事として意識していない小さな摂取は、記憶にも記録にも残りにくくなります。
研究などで参加者に「昨日、口にした食べ物と飲み物をすべて挙げてください」とお願いしても、最初の回答から、いくつもの食品が抜け落ちてしまうことがあります。
この現象を分かりやすく表したものが、いわば「ブラウニーの謎」です。昼食に何を食べたかは覚えていても、会議中に差し入れのブラウニーを半分食べたことは忘れてしまう。料理中の味見や、家族が残したおかずを一口食べたことも、「食事をした」という記憶には残りにくいものです。
米国農務省(USDA)の食事調査では、このような記録漏れを減らすため、最初に食事内容を聞いた後に、忘れやすい食品を改めて確認する「Forgotten Foods(忘れられた食品)」という手順が設けられています。[2]
524人のデータを解析した学会報告では、参加者の60%が「忘れやすい食品リスト」を確認する段階で少なくとも1品を追加で思い出しました。追加された食品は、報告された食品全体の6%を占めていました。[1]
追加で思い出された食品には、コーヒー、牛乳、清涼飲料などの飲み物、クッキーやキャンディーなどの甘いもの、チップスやクラッカーなどのスナックが多く含まれていました。[1]
| 「ブラウニーの謎」は正式な学術用語ではありません。 ブラウニーのような、食事として意識されにくい菓子類や小さなつまみ食いが、食事記録から抜け落ちやすい現象を分かりやすく表した言葉です。 |
■体は一口も見逃さない でも、記憶は見逃してしまう
本人にとって、ブラウニー半分や味見の一口は「大したもの」ではありません。しかし、体にとっては、食事であっても間食であっても、すべてエネルギー摂取です。
たとえば、次のようなものは“見えない摂取”になりやすいものです。
● 飴、チョコレート、せんべいなどの小さな間食
● 料理中の味見
● 家族や子どもの食べ残し
● 職場でもらった菓子や試食
● カフェラテ、ジュース、飲むヨーグルト
● スポーツドリンクや砂糖入りコーヒー
● 晩酌や寝る前のアルコール
● ドレッシング、マヨネーズ、バター、調理油
● 休日に増える外食や間食
一つひとつは少量でも、毎日繰り返されれば積み重なります。これは、本人がうそをついているという意味ではありません。「食べたと記憶しているもの」と「体が実際に受け取ったエネルギー」との間に、自然なずれが生じるということです。
体は一口も見逃しませんが、人の記憶は小さな一口を見逃します。
■「食べないようにしている」と「食べていない」は同じではない
もう一つ重要なのが、「食べないようにしている」という言葉です。この言葉は、実際の摂取量だけでなく、本人が日々感じている努力やつらさを表していることがあります。
● 目の前にある菓子を我慢する。
● 次の食事まで空腹に耐える。
● 食べた後に後悔する。
● 食べ物のことを考えないように努力する。
一日中このような葛藤が続けば、「これだけ我慢しているのだから、ほとんど食べていない」という感覚が生じます。しかし、強い努力感と、実際のエネルギー摂取量は必ずしも一致しません。ここに関係するのが、近年注目されている「フードノイズ」です。
■食べ物のことが頭から離れない「フードノイズ」
フードノイズとは、食べ物に関する考えが持続的かつ侵入的に浮かび、本人が止めようとしても頭から離れにくい状態を表す言葉です。[3][4][5]
● 食事をしながら、次に何を食べるか考えている
● お腹が空いていないのに食べ物を探してしまう
● 菓子があることが気になり、仕事や家事に集中しにくい
● 食べるか我慢するかを一日中考えている
● 食べた後に後悔し、再び食べ物のことを考える
● 食事制限を始めると、以前よりも食べ物が気になる
フードノイズは、単なる食欲の強さや意志の弱さではありません。食べ物のことが頭から離れず、日常生活、仕事、気分にまで影響し、本人のつらさにつながることがあります。
■GLP-1受容体作動薬でフードノイズは軽くなる?
当クリニックでは、2型糖尿病や肥満症の治療でGLP-1受容体作動薬を使用している方から、「以前より食べ物のことを考えなくなった」「食事へのとらわれが減り、楽になった」と伺うことがあります。
GLP-1受容体作動薬は、満腹感を高めて食事量を減らすだけでなく、食欲や食べ物への反応に関わる脳の働きにも影響すると考えられています。フードノイズという言葉が広く使われる前に行われた臨床試験でも、セマグルチドにより空腹感や食物への渇望が弱まり、食行動のコントロールが改善したことが報告されています。[6]

さらに、2025年の欧州糖尿病学会(EASD)で発表された米国の調査(INFORM)では、セマグルチド開始後にフードノイズが軽減したと報告されました。[7]
Medscape Medical Newsが2026年欧州肥満学会(ECO 2026)の観察研究として紹介した報告では、行動療法と同時にGLP-1受容体作動薬を開始した人は、行動療法のみを受けた人よりも、1か月後のFood Noise Questionnaire(FNQ)スコアが大きく低下しました。調整後平均では、GLP-1受容体作動薬併用群で4.1点、行動療法単独群で1.2点低下しました。[8]
| 〇囲み解説 FNQとは? Food Noise Questionnaire(FNQ)は、食べ物に関する思考がどの程度繰り返し浮かび、日常生活や健康的な食行動を妨げているかを5項目で評価する自己記入式質問票です。得点が高いほど、フードノイズが強いことを示します。[4] 〇原著5項目が尋ねる内容(コラム用参考訳) 1.食べ物のことを繰り返し考えますか。 2.食べ物について考え始めると、なかなか止められませんか。 3.食べ物に関する考えによって、ほかのことに集中しにくくなりますか。 4.食べ物に関する考えによって、健康的な食べ方を続けにくくなりますか。 5.食べ物に関する考えによって、食べる量をコントロールしにくくなりますか。 ※上記は内容を分かりやすく伝えるための参考訳であり、正式に検証された日本語版ではありません。 FNQは診断検査ではなく、現時点で広く確立されたカットオフ値もありません。 原著:Diktas HE, et al. Obesity. 2025;33:289-297. |
| 現時点では「フードノイズだけを治療する薬」として確立していません フードノイズに関する薬物治療の研究は始まったばかりで、質問票を用いた調査、観察研究、学会抄録が中心です。糖尿病や肥満症などの適応を確認し、副作用や栄養状態にも配慮しながら、医師の管理下で使用する必要があります。 |
■フードノイズの強さと食事量は一致しない
フードノイズが強い人が、必ずしも一度に大量の食事を取るとは限りません。食事量は少なく見えても、次のような食べ方が隠れていることがあります。
● 少量の間食を何度も繰り返す
● 甘い飲み物を少しずつ飲む
● 食事制限の反動で夜間の摂取が増える
● 平日は我慢し、休日に摂取量が増える
● 食品を「少しだけ」つまむ回数が多い
一方で、1回ごとの摂取量がそれほど多くなくても、一日中食べ物と戦っているため、精神的に疲弊している人もいます。そのため、「食べ過ぎていますね」「もっと我慢してください」と伝えるだけでは、本人のつらさを強めてしまう可能性があります。
必要なのは、食べた量だけでなく、食べ物にどれほど思考を占領されているかを確認することです。
■体重が減らない原因は、記録漏れだけではない
もちろん、体重が減らない原因を、すべて“見えない摂取”のせいにしてはいけません。数日から数週間の体重は、体脂肪だけでなく、水分、塩分摂取、便通、月経周期、グリコーゲンの変化などにも影響されます。体脂肪が少し減っていても、水分が増えて体重計に表れないことがあります。
また、次のような要因も確認する必要があります。
● 身体活動量や筋肉量の低下
● 睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群
● 甲状腺機能低下症などの内分泌疾患
● むくみを伴う心臓、腎臓、肝臓の病気
● ステロイドや一部の向精神薬など、体重に影響する薬剤
● インスリン、スルホニル尿素薬(グリメピリドなど)、ピオグリタゾンなどによる体重増加
● 閉経や加齢に伴う体組成の変化
ただし、「基礎代謝が壊れてしまったから、何をしても痩せない」と決めつけるのも適切ではありません。減量に伴って消費エネルギーが低下することはありますが、摂取量、活動量、筋肉量、薬剤、睡眠などを一つずつ確認することが大切です。
■厳しい食事制限より、まず「見える化」
「食べていないのに体重が減らない」と感じると、さらに食事を減らそうとする人がいます。しかし、極端な欠食や厳しい食事制限によって空腹感やフードノイズが強まり、その反動で間食や過食が増えることがあります。筋肉量が減れば消費エネルギーも低下し、かえって減量が進みにくくなる可能性があります。
まず必要なのは、食事量をさらに減らすことではなく、現在の食べ方をできるだけ正確に見えるようにすることです。
- 3~7日間、口にしたものを写真に撮る
食事だけでなく、飲み物、間食、味見、調味料も撮影します。きれいに盛り付ける必要はありません。「正しく食べよう」とせず、できるだけ普段どおりに記録することが重要です。 - 平日だけでなく休日も確認する
平日は食事を控えていても、休日や外食時に摂取量が増えることがあります。平均的な食生活を把握するには、異なる曜日を含めて確認します。 - 食べ物について考えている時間も振り返る
「空腹でないときにも食べ物が頭から離れないか」「食べるか我慢するかを一日中考えていないか」「我慢することに疲れていないか」などを振り返ります。 - 体重だけでなく、体調や薬剤も確認する
急な体重増加、むくみ、強い倦怠感、寒がり、便秘、月経異常などがある場合は、医学的な評価が必要です。服用中の薬が体重に影響していないかも医師に確認しましょう。
■「もっと我慢する」から「一緒に謎を解く」へ
「大したものは食べていない」と話す受診者に、「そんなはずはありません」と答えてしまうと、責められたと感じ、食事について話しにくくなります。本人も、本当に食べていないと認識していることが少なくありません。
「体重が維持されている理由を、一緒に探してみましょう」
「食事だけでなく、飲み物や小さな間食も写真で確認してみましょう」
「食べ物のことを考え続けるつらさも教えてください」
このように伝え、本人を責めるのではなく、一緒に原因を見つけていく姿勢が大切です。
■まとめ
「食べないようにしているのに体重が減らない」という訴えは、単なる言い訳ではありません。その背景には、次のような要因が複雑に関係しています。
● 食事として認識されにくい“見えない摂取”
● お菓子や飲み物が記録から抜け落ちる「ブラウニーの謎」
● 食べ物のことが頭から離れない“フードノイズ”
● GLP-1受容体作動薬によって食欲や食へのとらわれが軽減する可能性
● 水分変動、活動量、筋肉量、薬剤、疾患などの影響
大切なのは、本人を問い詰めることでも、さらに厳しい食事制限を課すことでもありません。食べたものと、食べ物について考えている時間の両方を見える化し、「なぜ体重が減らないのか」を受診者と一緒に謎解きしていくことが、無理なく続けられる減量支援につながります。
体は一口も見逃しませんが、人の記憶は小さな一口を見逃します。
■参考文献
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1.Ingwersen LA, Raper NR, Anand J, Moshfegh AJ. Validation study shows importance of probing for forgotten foods during a dietary recall. J Am Diet Assoc. 2004;104(8 Suppl):A-13.[学会抄録] https://www.ars.usda.gov/research/publications/publication/?seqNo115=162314
2.Moshfegh AJ, Rhodes DG, Baer DJ, et al. The US Department of Agriculture Automated Multiple-Pass Method reduces bias in the collection of energy intakes. Am J Clin Nutr. 2008;88:324-332. https://doi.org/10.1093/ajcn/88.2.324
3.Hayashi D, Edwards C, Emond JA, et al. What Is Food Noise? A Conceptual Model of Food Cue Reactivity. Nutrients. 2023;15:4809. https://doi.org/10.3390/nu15224809
4.Diktas HE, Cardel MI, Foster GD, et al. Development and validation of the Food Noise Questionnaire. Obesity (Silver Spring). 2025;33:289-297. https://doi.org/10.1002/oby.24216
5.Dhurandhar EJ, Maki KC, Dhurandhar NV, et al. Food noise: definition, measurement, and future research directions. Nutr Diabetes. 2025;15:30. https://doi.org/10.1038/s41387-025-00382-x
6.Blundell J, Finlayson G, Axelsen M, et al. Effects of once-weekly semaglutide on appetite, energy intake, control of eating, food preference and body weight in subjects with obesity. Diabetes Obes Metab. 2017;19:1242-1251. https://doi.org/10.1111/dom.12932
7.Arnaut T, Ó Hartaigh B, Byrne K, Duncan S, Kvist K. LBA 45: Impact on food noise after initiating semaglutide treatment: results from a US survey (INFORM). Diabetologia. 2025;68(Suppl 1):S669.[学会抄録] https://doi.org/10.1007/s00125-025-06497-1
8.Larkin M. Food Noise: a Real Phenomenon Deserving of Being Treated. Medscape Medical News. June 30, 2026.[ECO 2026で発表された観察研究を紹介した報道記事] Medscape記事検索
(文責:医療法人寿里会 すぎもと内科・糖尿病内科クリニック 杉本一博)