糖尿病予備群から高まる手の機能障害リスク~血糖値だけでは説明できない異常とは?~
■糖尿病とともに注意したい、手や肩の病気
「最近、指の曲げ伸ばしで引っかかるようになった」「朝起きると手がしびれている」「指が硬くなり、以前のように伸ばせない」――このような症状を、年齢のせいだと思っていませんか?
実は、こうした手の異常が糖尿病と関連していることが知られています。糖尿病の代表的な合併症には、網膜症、腎症、神経障害などがあります。一方、心筋梗塞や脳卒中は糖尿病のある人で発症リスクが高まる併存症です。同じように、肩や手指の関節、腱、神経などの障害も、糖尿病や糖尿病予備群の人で起こりやすい併存症として注目されています。
2025年に医学誌『Diabetes Care』に掲載された総説では、上肢(肩から手指まで)のこうした障害は糖尿病のある方では一般人口の約2~3倍多く認められると報告されています[1]。さらに、糖尿病と診断される前の「糖尿病予備群」の段階でも、すでに手の機能障害が認められるという研究結果が注目されています。
※ 本コラムで扱う「凍結肩」は、一般に五十肩と呼ばれる状態のうち、特に関節包が硬くなって肩の動きが制限される病態(癒着性関節包炎)を指します。
図1.糖尿病で起こりやすい手や肩の併存症

出典:Braffett BH, et al. Diabetes Care. 2025;48(11):1865–1874. doi:10.2337/dci25-0012(総説掲載図を基に作成)
1.糖尿病予備群でも、手の機能が低下している?
糖尿病予備群とは、血糖値が正常より高くなっているものの、まだ糖尿病の診断基準には達していない状態です。この段階では、一般に糖尿病の典型的な自覚症状はほとんどありません。
2025年7月にオンライン公表されたErolらの研究では、18~65歳の糖尿病予備群100人と、正常血糖の対照群50人を比較しました[2]。手の病気の有無に加え、日常生活でどの程度手を使いやすいか、握力がどの程度あるかなどを調べました。
〇研究で認められた3つの特徴
① 手の機能が有意に低下:Duruöz Hand Indexという質問票を用いた評価で、糖尿病予備群は正常血糖の人より手の機能障害が有意に強く認められました(P=0.025)。
② 手指の関節可動域制限が多い:指の関節が硬くなり、十分に伸ばしたり曲げたりできない状態が、糖尿病予備群で有意に多く認められました(P=0.024)。
③ ばね指・手根管症候群・握力低下との関連:糖尿病予備群の中では、ばね指や手根管症候群があること、非利き手の握力が弱いことが、手の機能低下と関連していました。
これらは明らかな糖尿病になる前から手の障害が認められる可能性を示します。ただし、ある時点での健康状態を比較した観察研究であり、糖尿病予備群が手の障害を引き起こしたと証明したものではありません。
2.特に注意したい3つの手の異常
① ばね指――指が引っかかり、スムーズに伸びない
ばね指は、指を曲げ伸ばしするときに引っかかったり、カクッと跳ねるように動いたりする病気です。腱と腱鞘の間で動きが滑らかでなくなることによって生じ、指の付け根の痛みや、朝方の症状がみられる場合があります。
② 手根管症候群――夜間や朝方に手がしびれる
手首で正中神経が圧迫され、親指、人さし指、中指を中心にしびれや痛みが生じる病気です。夜間や朝方に症状が出やすく、進行すると親指の筋力が低下し、細かい作業が難しくなることもあります。
③ 手指関節可動域制限――指が十分に伸びない
手指の関節や周囲の組織が硬くなり、指を十分に伸ばせなくなる状態です。痛みがないまま進行することもあります。胸の前で両手を祈るように合わせたとき、手のひらや指が完全に合わない「祈祷徴候」が診察の手がかりになります。ただし、これだけでは診断は確定しません。
図2.祈祷徴候:手指の関節が伸びにくくなる状態

図は祈祷徴候の模式図です。指や手のひらを完全に合わせられない場合、関節可動域制限が疑われます。
3.手の機能障害はHbA1cと相関しなかった
今回の研究で特に興味深いのは、手の機能障害の程度が、HbA1c、空腹時血糖値、糖負荷試験の2時間血糖値のいずれとも有意な相関を示さなかったことです[2]。 なお、HbA1cは過去2~3か月の平均的な血糖状態を示す指標です。
つまり、現在のHbA1cや血糖値だけを見ても、手の機能障害の有無や程度を十分に把握できない可能性があります。ただし、「高血糖は手の障害と無関係である」という意味ではありません。HbA1cは長年の組織変化や慢性炎症そのものを直接測定する指標ではなく、今回の横断研究で相関がみられなかったことだけで高血糖の関与を否定したり、ほかの原因を特定したりすることはできません。
4.なぜ血糖値だけでは説明できないのでしょうか?
糖尿病に関連する手や肩の障害の仕組みは、まだ十分には解明されていません。以下のような機序が考えられています[1]。
① 糖化による組織の硬化:ブドウ糖とたんぱく質の反応によって形成される糖化最終産物(AGEs)の蓄積や架橋形成が、腱・靱帯・関節包の柔軟性を低下させる可能性があります。
② 肥満と慢性炎症:肥満、とくに内臓脂肪の蓄積があると、脂肪組織の機能異常によって炎症性サイトカインなどが増え、全身で弱い炎症が持続することがあります。こうした炎症は腱、腱鞘、関節包などの組織に影響し、肥厚や線維化、関節の動かしにくさにつながる可能性があります。
③ インスリン抵抗性:糖尿病予備群では、インスリンが十分に働きにくくなる「インスリン抵抗性」を伴うことがあります。インスリン抵抗性は肥満や脂質代謝異常、慢性的な軽度炎症とも関連しており、これらの代謝異常が重なって手の組織に影響する可能性があります。
以上のように、長期間の高血糖による糖化と、肥満・インスリン抵抗性に伴う慢性炎症とが複合的に関わる可能性があります。ただし、これらは病態を説明するための仮説であり、糖尿病予備群における各因子の寄与の大きさは分かっていません。Erolらの研究が、糖化最終産物、慢性炎症、インスリン抵抗性を手の機能障害の直接的な原因と証明したわけではありません。
図3.高血糖・肥満・インスリン抵抗性と上肢の組織変化(想定される発症機序)

出典:[1]Braffett BH, Berg TJ, Zimmerman M, et al. Upper-Limb Complications in Diabetes: A Narrative Review. Diabetes Care. 2025;48(11):1865–1874. doi:10.2337/dci25-0012(病態仮説を模式化。因果関係は未確立)
図4.上肢の併存症と関連する主な危険因子

出典:Braffett BH, et al. Diabetes Care. 2025;48(11):1865–1874. doi:10.2337/dci25-0012(総説掲載図を基に作成)
5.1型糖尿病のある方では、手や肩の障害が多く認められる
2023年のデンマークの研究では、1型糖尿病のある方2,245人と糖尿病のない841人を比較し、上肢疾患を有するオッズが1型糖尿病のある方で有意に高いことが示されました[3]。
| 疾患 | オッズ比 |
| ばね指 | 5.0 |
| デュピュイトラン拘縮 | 4.3 |
| 凍結肩(いわゆる五十肩の一種) | 3.5 |
| 手根管症候群 | 3.5 |
オッズ比は発症確率の倍率そのものではありません。また、この研究は1型糖尿病のある方が対象であり、2型糖尿病のある方や糖尿病予備群に同じ数値が当てはまるわけではありません。糖尿病罹病期間が長いほど、こうした障害は多く認められました。
図5.糖尿病のタイプ別に報告された上肢併存症の頻度

出典:Braffett BH, et al. Diabetes Care. 2025;48(11):1865–1874. doi:10.2337/dci25-0012(総説掲載図を基に作成)
6.手の機能障害は、日常生活の質にも影響する
手の痛み、しびれ、こわばりが続くと、ボタンを留める、箸やペンを使う、ペットボトルのふたを開ける、家事をする、パソコンを操作するといった動作に支障が生じます。仕事の効率が落ちたり、業務の変更や欠勤が必要になる場合もあります。
2024年公表の1型糖尿病のある方を対象とした研究でも、上肢機能障害が仕事や日常生活に与える影響が報告されています[4]。上肢障害は単なる指や肩の問題ではなく、生活の質に関わる重要な問題です。
7.どのような症状があれば相談すべきでしょうか?
・指を曲げ伸ばしすると引っかかる
・夜間や朝方に手指がしびれる
・指を十分に伸ばせない、手のひらを平らに広げにくい
・親指の付け根が痛い、握力が弱くなった
・肩が痛く、腕を上げにくい
これらの症状が必ず糖尿病によるとは限りません。加齢、反復する手作業、関節症、頸椎疾患などさまざまな原因があり得ます。特に筋力低下が進む場合やしびれが持続する場合は、早めに医療機関で評価を受けましょう。
図6.上肢の併存症に対する主な治療の選択肢

出典:Braffett BH, et al. Diabetes Care. 2025;48(11):1865–1874. doi:10.2337/dci25-0012(総説掲載図を基に作成)
8.血糖管理だけでなく、手や肩の健康にも目を向けましょう
今回の研究は、糖尿病予備群の段階ですでに手の機能障害がみられる可能性を示しました。しかし、予備群のすべての人に定期的な手の検査を行えば将来の障害を予防できる、と証明されたわけではありません。また、減量や血糖改善で既存の手の障害がどの程度改善するかも十分には分かっていません。
糖尿病予備群の段階から血糖、体重、血圧、脂質などの管理に取り組むことは、将来の糖尿病や心血管疾患のリスク低減に重要です。肥満やインスリン抵抗性、慢性炎症も手の障害に関係する可能性がありますが、減量や代謝状態の改善が上肢障害を予防するとまでは、現時点では証明されていません。同時に、指のこわばりやしびれ、肩の痛みといった体の変化にも注意しましょう。
血糖値がそれほど高くないからといって、体に何も起きていないとは限りません。糖尿病の予防や治療では、検査数値の改善だけでなく、日常生活で不自由なく体を動かせること、生活の質を守ることも大切にしたいと考えています。
■参考文献
[1]Braffett BH, Berg TJ, Zimmerman M, et al. Upper-Limb Complications in Diabetes: A Narrative Review. Diabetes Care. 2025;48(11):1865–1874.原典 DOI
[2]Erol K, Akyıldız Tezcan E, Topaloğlu US, Göl MF. Diabetic Hand Complications in Prediabetes: A Controlled Observational Study. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2026;107(5):868–874. Online published July 18, 2025.原典 DOI
[3]Wagner S, Nørgaard K, Willaing I, Olesen K, Andersen HU. Upper-Extremity Impairments in Type 1 Diabetes: Results From a Controlled Nationwide Study. Diabetes Care. 2023;46(6):1204–1208.原典 DOI
[4]Wagner S, Nørgaard K, Willaing I, Olesen K, Andersen HU. The impact of upper extremity impairments on work and everyday life of people with type 1 diabetes—A nationwide controlled study. Diabetic Medicine. 2024;41(1):e15158.原典 DOI
文責:すぎもと内科・糖尿病内科クリニック 院長 杉本一博