🩺慢性炎症が新たな心血管疾患予防の治療目標に!
これまで心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患の予防といえば、
「コレステロールを下げる」「血圧や血糖をコントロールする」ことが中心でした。
しかし近年の研究で、これらのリスク管理を行ってもなお発症する“残存リスク”の多くが、慢性炎症に関係していることが分かってきました。
🔹 血管の中で起こる“炎症”とは?
血管の壁は、加齢や生活習慣の影響を受けると軽い炎症反応を起こします。
喫煙・肥満・高血糖・ストレスなどがその引き金になります。
この炎症が長期間続くと、血管内皮が傷つき、動脈硬化(アテローム)が進行しやすくなります。
🔹 「高感度CRP(hsCRP)」が炎症の指標に
最近では、血液検査で測定できる高感度CRP(hsCRP)が注目されています。
これは体内の“目に見えない炎症”を敏感に反映するマーカーで、
値が高いほど将来の心筋梗塞・脳卒中リスクが高いことが分かっています。
たとえLDL(悪玉)コレステロールが低くても、hsCRPが高い人では心血管イベントの発症率が高いという結果が、米国心臓病学会(ACC)や「JUPITER試験」などの大規模研究で示されています(下図参照)。

🔹 炎症を抑える新しいアプローチ
スタチン(コレステロールを下げる薬)は、実は炎症を抑える作用も持っています。
ロスバスタチンを服用した患者では、hsCRPが約40%低下し、心血管イベントの発症も大きく減少しました(下図参照)。

さらに最近では、抗炎症薬(IL-1β阻害薬やコルヒチン)を用いた研究でも、
炎症を鎮めることで心筋梗塞の再発が減ることが報告されています。
つまり、「炎症を抑えること」自体が新しい治療ターゲットになっているのです。
🔹 生活習慣が炎症をコントロールする
慢性炎症は、薬だけでなく生活習慣でも改善できます。
- バランスのとれた食事(特に地中海食:魚・野菜・ナッツ・オリーブ油)
- 適度な運動(週150分以上の有酸素運動)
- 十分な睡眠とストレスケア
- 禁煙・節酒
これらの積み重ねが、血管の炎症を抑え、hsCRPの低下につながります(下図参照)。

🔹 炎症が動脈硬化を進める仕組み
- 生活習慣や疾患が引き金に
喫煙、肥満、高血圧、糖尿病などが炎症性サイトカイン(IL-1β、TNF-αなど)を増やします。 - 炎症性サイトカインが肝臓へ“メッセージ”を送る
これらの炎症性物質は、血液を介して肝臓に届き、IL-6という「メッセンジャーサイトカイン」を介して肝臓を刺激します。 - 肝臓が急性期反応蛋白を作る
肝臓は炎症信号を受けて、CRP(C反応性蛋白)や血清アミロイドA(SAA)といった“炎症のバイオマーカー”を作り出します。これらの数値を血液検査で測ることで、体の中の「見えない炎症の強さ」を知ることができます。 - 炎症が血管を傷つけ、プラーク形成を促進
長く炎症が続くと、血管内皮が傷つき、脂質が沈着してプラーク(動脈硬化巣)が形成されます。
このプラークが破れると血栓ができ、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こします。
🔹 炎症を抑える生活習慣が血管を守る
図の中央にあるように、「抗炎症的な生活習慣」が炎症を抑える鍵です。
- 定期的な身体活動(ウォーキングや軽い筋トレ)
- 果物・野菜・ナッツ類の摂取
- 青魚などのオメガ3脂肪酸を多く含む食品
- 適度な飲酒(飲みすぎない)
これらの習慣は、炎症性サイトカインの発生を抑え、hsCRP(高感度CRP)の値を低下させます。
つまり、「炎症を抑える生活」=「動脈硬化を遅らせる生活」なのです。
🔹 まとめ
✅ コレステロールだけでなく「炎症」も心血管リスクの重要な要因
✅ hsCRPは“見えない炎症”を数値で知るためのマーカー
✅ スタチン治療+生活改善で「残存炎症リスク」を減らすことができる
すぎもと内科・糖尿病内科クリニックでは、
血管の健康を総合的に守るために、血糖・脂質だけでなく炎症マーカー(CRP)を含めたリスク評価を行い、最適な予防・治療を一人ひとりに合わせてご提案しています。
✍️ 文責:杉本 一博 すぎもと内科・糖尿病内科クリニック 院長