こむら返りはなぜ起きる?実は健康状態のバロメーター
夜中、ふくらはぎに突然激痛が走り、筋肉が石のように硬くなる「こむら返り」。医学的には、主に睡眠中に起こるものを夜間下肢筋けいれん(nocturnal leg cramps:NLC)と呼びます。
多くは数秒から数分で治まる一過性の症状で、重大な病気によるものではありません。しかし、繰り返すこむら返りは、単なる「水分不足」や「ミネラル不足」ではなく、睡眠や全身の健康状態が低下しているサインである可能性があります。 [1] [2]
| <このコラムの要点> こむら返りの中心的な仕組みは、筋肉そのものの異常というより、筋肉を動かす神経の過剰な興奮です。頻回に起こる場合は、貧血、睡眠障害、糖尿病性神経障害、血流障害、関節・脊椎疾患、肝・腎機能低下、薬剤などを見直すきっかけになります。 |
1.筋肉ではなく、神経の“誤作動”が中心
こむら返りは、ふくらはぎなどの筋肉が本人の意思とは関係なく、突然強く収縮した状態です。
以前は「筋肉に乳酸がたまる」「水分や電解質が不足する」ことが主な原因と考えられていました。しかし現在は、筋肉そのものよりも、筋肉を動かす運動神経が過剰に興奮し、異常な電気信号を繰り返し送り続けることが中心的な仕組みと考えられています。 [1]
筋肉の疲労、末梢神経の障害、血流低下、脱水や電解質異常などが加わると、神経の興奮を抑える仕組みが乱れ、筋肉が収縮したまま戻りにくくなります。
また、就寝中は足首が下向きに伸び、ふくらはぎの筋肉が短くなりやすい状態です。筋肉が短くなったところに強い収縮信号が加わることも、夜間にこむら返りが起こりやすい理由の一つと考えられています。 [1] [3]
2.夜中に脚がつる人は珍しくない
米国の成人を対象とした大規模調査では、約30%が何らかのNLCを報告し、約6%は月15回以上の頻回なNLCを経験していました。NLCは年齢とともに増加し、頻度が高いほど、睡眠障害や健康状態不良との関連が強くなっていました。 [2]
毎晩のように脚がつっていても、「年齢のせいだから仕方がない」と医療者に相談していない人は少なくありません。しかし、頻回なこむら返りは睡眠を中断させ、翌日の眠気や活動量の低下、生活の質の悪化につながることがあります。 [1] [2]
3.こむら返りは「健康状態のバロメーター」
大規模調査では、NLCは次のような状態と関連していました。
<睡眠に関する要因>
・睡眠時間が短い
・寝つきが悪い
・夜中に目が覚める
・眠っても疲れが取れない
・日中に強い眠気がある
・夜間に脚がぴくつく
・いびきや睡眠中の息苦しさがある
特に、夜間の脚のぴくつき、入眠困難、熟睡感のない睡眠との関連が強く認められました。ただし、「脚のぴくつき」と「痛みを伴うこむら返り」は同じ症状ではなく、調査回答の中で一部混同されていた可能性もあります。 [2]
<慢性疾患や健康状態>

NLCは、糖尿病、高血圧、心血管疾患、関節炎、呼吸器疾患、甲状腺疾患、抑うつ症状などとも関連していました。
なかでも、個々の病気の有無以上に、本人が感じる「全体的な健康状態の悪さ」が、頻回なNLCと強く関連していました。 [2]
<生活・社会的な背景>
肥満、喫煙、失業、教育歴などとの関連も認められました。
ただし、この研究は一時点の状態を調べた横断研究です。肥満や喫煙などが直接こむら返りを起こすことや、それらを改善すればNLCが減ることまで証明した研究ではありません。基礎疾患、身体活動、睡眠障害、生活上の負担など、複数の要因を反映している可能性があります。 [2]
したがって、こむら返りは特定の病気を診断する検査ではありませんが、身体や睡眠に負担がかかっていないかを見直すきっかけになります。
4.糖尿病のある人に多いのはなぜ?

糖尿病のある人を対象とした研究では、筋けいれんを経験した人の割合は、健常者の39.5%に対し、1型糖尿病では57.5%、2型糖尿病では75.5%でした。特に2型糖尿病では、年齢や性別を調整した後も筋けいれんが有意に多く、痛みも強く、約3人に1人が生活に支障を感じていました。また、筋けいれんは糖尿病性末梢神経障害と関連しており、糖尿病のある人にこむら返りが多い理由の一つとして、運動神経の働きが不安定になることが関与している可能性があります。 [4]
高血糖が長く続くと、末梢神経や神経に栄養を送る細い血管が障害されます。神経の働きが不安定になると、しびれや感覚低下だけでなく、運動神経が過剰に興奮して筋けいれんを起こしやすくなる可能性があります。 [1] [4]
さらに、糖尿病のある人では次の要因が重なることがあります。
・末梢動脈疾患による脚の血流低下
・腎機能低下
・著しい高血糖による多尿と脱水
・利尿薬などの使用
・筋力や筋肉量の低下
・腰部脊柱管狭窄症などの併存
ただし、大規模調査では糖尿病、血糖値、HbA1cとNLCとの関連が認められたものの、糖尿病性神経障害や末梢動脈疾患が直接評価されていませんでした。そのため、高血糖そのものが直接こむら返りを起こすと断定することはできません。 [2]
5.「ミネラル不足」と決めつけない
大量に汗をかいた、下痢や嘔吐が続いた、著しい高血糖で尿量が増えた場合などには、脱水やナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムの異常がこむら返りを誘発することがあります。 [1]
一方、一般的な夜間のこむら返りの多くは、電解質異常だけでは説明できません。通常の血液検査で異常がない人にもNLCは起こります。
「脚がつるからマグネシウムやカリウムが不足している」と自己判断し、サプリメントを大量に摂取することは勧められません。特に腎機能が低下している人では、カリウムやマグネシウムが体内に蓄積し、かえって危険になることがあります。
6.つったときは、縮んだ筋肉を伸ばす
ふくらはぎがつったときは、次のように対応します。
1. 膝を伸ばします。
2. 足首を曲げ、つま先をゆっくりとすねの方向へ引き寄せます。
3. 立てる場合は、足裏とかかとを床につけたまま、身体を前へ傾けます。
4. 痛みが治まってきたら、軽く歩いたり、温めたりします。
こむら返りでは、収縮している筋肉と反対方向に力を加えて、縮んだ筋肉を伸ばすことが基本です。強く揉みすぎたり、反動をつけて急に伸ばしたりすると、筋肉や腱を傷めることがあるため注意しましょう。 [1]
7.予防には就寝前のストレッチ
55歳を超える80人を対象としたランダム化比較試験では、就寝前にふくらはぎと太ももの裏側を6週間ストレッチしたグループで、こむら返りの頻度と痛みが減少しました。小規模な研究ではありますが、薬を使わずに行える方法として試す価値があります。 [5]
壁に両手をつき、つりやすい脚を後ろに引きます。後ろ脚の膝とかかとを伸ばしたまま、前脚の膝をゆっくり曲げ、ふくらはぎを20~30秒伸ばします。
痛みが出るほど強く伸ばす必要はありません。無理のない範囲で毎晩継続することが大切です。
8.芍薬甘草湯は効く?

日本では、こむら返りに芍薬甘草湯がよく処方されます。服用後、速やかな改善を実感する人もいます。
しかし、筋けいれんに対する芍薬甘草湯の臨床試験を検討した系統的レビューでは、採用されたランダム化比較試験は3件にとどまり、対象も主に肝硬変や腰部脊柱管狭窄症のある人でした。研究数が少なく、方法のばらつきも大きいため、一般的なNLCに対する有効性が十分に証明されているとはいえません。 [6]
また、「漢方薬だから安全」とは限りません。芍薬甘草湯に含まれる甘草によって、次の副作用が起こる可能性があります。
・低カリウム血症
・血圧上昇
・むくみ、体重増加
・筋力低下
・ミオパチー、横紋筋融解症
・心不全
・重篤な不整脈
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の電子添文でも、治療上必要な最小限の期間にとどめること、血清カリウム値や血圧に注意すること、症状が改善しなければ継続投与を避けることが求められています。 [7]
頓用や短期間の使用は選択肢になりますが、毎晩漫然と服用するのではなく、効果と副作用を確認しながら使用することが重要です。
9.医療機関への相談が勧められる場合
次のような場合は、単なる夜間のこむら返りとして済ませず、背景を確認する必要があります。
・頻度が増え、睡眠や日常生活に支障がある
・しびれ、感覚低下、筋力低下を伴う
・歩くとふくらはぎが痛み、休むと改善する
・足が冷たい、傷が治りにくい
・片脚だけが腫れる、赤くなる、熱を持つ
・新しい薬の開始や増量後に出現した
・全身の筋肉痛、強い脱力、褐色尿を伴う
診察では、症状に応じて貧血、糖尿病性神経障害、末梢動脈疾患、腰部脊柱管狭窄症、腎・肝疾患、甲状腺疾患、電解質異常、睡眠障害、使用薬剤などを確認します。 [1]
まとめ
こむら返りの中心的な仕組みは、単なる筋肉疲労やミネラル不足ではなく、筋肉を支配する神経の過剰な興奮です。
多くは良性ですが、繰り返す場合には、貧血、睡眠障害、糖尿病性神経障害、血流障害、関節・脊椎疾患、肝・腎機能低下、脱水、薬剤などが関係していることがあります。
「また脚がつった」で終わらせず、頻度が増えたときには、まずは身体と睡眠の状態を見直してみましょう。
こむら返りは特定の病気を診断するものではありませんが、身体から届く小さな警告、すなわち健康状態のバロメーターなのかもしれません。
文献
[1] Bordoni B, Goldin J, Sugumar K. Muscle Cramps. StatPearls [Internet]. Updated September 14, 2025.
[2] Grandner MA, Winkelman JW. Nocturnal leg cramps: Prevalence and associations with demographics, sleep disturbance symptoms, medical conditions, and cardiometabolic risk factors. PLoS One. 2017;12:e0178465.
[3] Rabbitt L, Mulkerrin EC, O’Keeffe ST. A review of nocturnal leg cramps in older people. Age Ageing. 2016;45(6):776-782.
[4] Katzberg H, Kokokyi S, Halpern E, et al. Prevalence of muscle cramps in patients with diabetes. Diabetes Care. 2014;37(1):e17-e18.
[5] Hallegraeff JM, van der Schans CP, de Ruiter R, de Greef MHG. Stretching before sleep reduces the frequency and severity of nocturnal leg cramps in older adults: a randomised trial. J Physiother. 2012;58(1):17-22.
[6] Ota K, Fukui K, Nakamura E, et al. Effect of Shakuyaku-kanzo-to in patients with muscle cramps: a systematic literature review. J Gen Fam Med. 2020;21(3):56-62.
[7] 医薬品医療機器総合機構(PMDA). ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)電子添文.
(文責: 医療法人寿里会すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)