脂肪肝:診断しても治療につながらない日本~世界のMASLD診療から考える日本の保険制度の「断絶」~

早期のMASLDでは体重・食事・運動への介入が病態改善の中心であり、線維化が進んだMASHでは薬物治療も現実の選択肢になりました。それにもかかわらず、日本では早期MASLDに対する栄養支援と、進行したMASHに対する薬物治療の間に、保険制度上の大きな谷があります。世界的に「かかりつけ医をどう診療体系に組み込むか」という議論が進み、肥満症やMASHに対する薬物療法も進化するなか、日本は逆向きの制度設計になっています。
このままの状態が続けば、近い将来、日本は肥満症・MASH治療で取り返しのつかないほど大きく後れを取ることになるのではないでしょうか。
1.MASLDは「脂肪がある」だけで終わらない
MASLDは、現在の脂肪性肝疾患の中心的概念です。従来のNAFLDから名称と診断枠組みが改められ、肝脂肪化に心代謝リスクが重なる全身性の代謝疾患として捉えられています。世界の成人では脂肪性肝疾患が約3割にみられると推定され、決して「一部の人だけの肝臓病」ではありません[1]。

病態は一方向に必ず進むわけではありませんが、概念的には 肝脂肪化 → MASH(脂肪化+炎症・肝細胞障害) → 線維化の進行〔F0 → F1 → F2 → F3〕 → 肝硬変(F4) → 肝不全・肝細胞癌 という経路をとり得ます。重要なのは、MASHの診断そのものに線維化は必須ではないことです。MASHは脂肪化に肝細胞が風船のように膨れて変性するバルーニングと小葉内炎症を伴う状態で、予後を大きく左右するのは線維化(F)ステージです。特にF2~F3は「進行リスクが高いMASH(at-risk MASH)」とされ、薬物治療開発の主な標的になっています[2]。ただし、F2とF3の厳密な判別は肝生検による組織評価が基準であり、血液・画像検査だけで確実に区別することは困難です。

MASLDは肝臓だけの病気ではありません。心血管疾患、2型糖尿病、慢性腎臓病などと共通の病態基盤をもち、cardio-kidney-metabolic(心血管・腎・代謝)疾患の一部として診る必要があります。
2.「誰を調べるか」はすでにかなり整理されている
欧州肝臓学会(EASL)・欧州糖尿病学会(EASD)・欧州肥満学会(EASO)の2024年合同ガイドラインは、2型糖尿病、腹部肥満に追加の代謝リスク因子をもつ人、持続する肝酵素高値などを、肝線維化の積極的な症例発見(case-finding)の対象としています[2]。米国肝臓学会(AASLD)も、画像で脂肪肝を指摘された人や、肥満・糖代謝異常などからMASLDが疑われる人ではFIB-4(年齢・肝酵素〔AST/ALT〕・血小板数から算出する肝線維化リスク指標)による一次評価を行うことを推奨しています[3]。

MASLD/MASHの主な高リスク群。糖尿病予備群、脂質異常、高血圧などの代謝リスクを組み合わせて考える。図中出典を参照。
3.肝線維化は、まず日常検査から層別化できる
現在の国際的な診療経路の基本は、まずFIB-4(肝線維化リスクを簡便にみる指標)を用い、必要な人だけエラストグラフィなどの二次検査へ進む二段階方式です。EASLは「多くのMASLDは肝臓専門外来以外で診療されている」ことを明記し、非肝臓専門領域でも順次的な非侵襲的検査を使う診療経路を提案しています[2]。AASLDではFIB-4<1.3なら低リスクとしてかかりつけ医で管理し、FIB-4≧1.3ではVCTE(振動制御過渡エラストグラフィ)、ELF(血液で肝線維化を評価するスコア)などの二次評価を行う流れが示されています[3]。

MASLD/MASHの肝線維化を評価する主な非侵襲的検査。FIB-4を入口とし、必要に応じてエラストグラフィ等へ進む。図中出典を参照。
4.日本人では「BMI 30未満だから大丈夫」とは言えない
日本の制度を考えるうえで見逃せないのが、アジア人では欧米白人より低いBMIでも肝脂肪が蓄積しやすいという点です。Azumaらは40~49歳の日本人男性と非ヒスパニック系白人男性を比較し、日本人は平均BMIが低いにもかかわらず肝脂肪量が多く、BMIのわずかな上昇に伴う脂肪肝の増え方も大きいことを報告しました[4]。

BMI別にみた脂肪肝の頻度。BMI 25~30では日本人男性55.0%、非ヒスパニック系白人男性22.1%。
このデータが示すのは、BMI 30という線引きより前に、すでに多くの日本人で肝脂肪蓄積が起きているということです。早期介入をBMI 30以降に寄せる制度は、日本人の病態とずれる可能性があります。
5.重症化する前の減量こそ、治療効果が期待できる
MASLD/MASHでは、減量量が大きいほど組織学的改善も大きくなる「用量反応関係」が示されています。Vilar-Gomezらの52週間の生活習慣介入研究では、10%以上減量した群で、NASH(現在のMASH)消失90%、NAS(肝炎の活動性を示す組織学的スコア)改善100%、脂肪化改善100%、小葉内炎症改善100%、線維化退縮45%が認められました[5]。これは、F2~F3まで進むのを待ってから治療するのではなく、もっと早い段階で体重・食事・活動量へ介入する合理性を示しています。

減量率が大きいほどMASH/NASHの組織学的改善が大きい。
6.ところが日本では、早期MASLDに「栄養支援の壁」がある
2026年度の外来栄養食事指導料では、特別食として「肝臓食」が掲げられています[6]。しかし通知上の肝臓食は、肝庇護食、肝炎食、肝硬変食、閉塞性黄疸食等とされ、MASLD・単純脂肪肝は明示されていません[7]。一方、肥満を根拠とする治療食は、外来栄養食事指導料では「肥満度+40%以上又はBMI 30以上」が基準です[8]。
もちろん、糖尿病や算定要件を満たす脂質異常症などを併存すれば、別の疾患を根拠に栄養食事指導へつなげられる場合があります。問題は、MASLDそのものを早期に見つけたことが、BMI 30未満の段階から管理栄養士による体系的・継続的な保険栄養支援へ直結しにくいことです。日本人ではBMI 25~29.9でも脂肪肝が高頻度であることを考えると、ここには予防医学上の明らかなミスマッチがあります。
7.MASHは「薬がない病気」ではなくなった
薬物治療の状況も大きく変わりました。セマグルチド2.4 mgはESSENCE試験(承認申請前の最終段階となる大規模な第III相臨床試験)で、F2~F3 MASHにおけるMASH消失62.9%(プラセボ34.3%)、線維化改善36.8%(22.4%)を示しました[9]。米国では2025年、日本では2026年6月にMASH適応が承認されています[10][11]。また、米国ではレスメチロム(resmetirom)が2024年に承認され、世界では、複数の異なる作用機序をもつ薬剤が、承認申請前の最終段階となる大規模臨床試験(第III相試験)まで進んでいます[12]。
世界的に肥満症・MASH治療が急速に進歩するなか、日本はいつまでこの進歩に背を向けて新しい有効な治療法を日常診療から締め出す規制を続けるつもりなのでしょうか。
< 世界で進むMASH治療薬の開発(2026年8月時点・主なもの)>
| 薬剤/分類 | 作用の特徴 | 開発・承認状況 | 主な臨床成績・注目点 |
| レスメチロム 甲状腺ホルモン受容体β(THR-β)作動薬 | 肝臓に直接作用し、脂肪酸酸化・ミトコンドリア機能を改善 | 米国承認済み(2024) | MAESTRO-NASHでMASH消失と線維化改善の双方を達成[12] |
| セマグルチド 2.4 mg GLP-1(食欲・血糖を調節するホルモン)受容体作動薬 | 減量・インスリン抵抗性改善を介し肝脂肪・炎症を改善 | 米国承認(2025)、日本承認(2026) | ESSENCE:MASH消失62.9% vs 34.3%、線維化改善36.8% vs 22.4%[9][10][11] |
| チルゼパチド GIP/GLP-1(2種類の消化管ホルモン)二重作動薬 | 強力な減量と代謝改善 | 第II相で有効性の可能性を確認。より大規模な第III相試験・長期評価が必要 | SYNERGY-MASH:MASH消失44~62% vs 10%、線維化改善51~55% vs 30%[13] |
| スルボデュチド(survodutide) GLP-1/グルカゴン二重作動薬 | 食欲抑制+肝脂肪酸化促進 | F2~F3 MASHを対象とする、実用化前の最終段階の大規模試験(第III相LIVERAGE)が進行中 | 第II相:MASH改善最大62% vs 14%、線維化改善最大36% vs 22%[14][15] |
| ラニフィブラノール(lanifibranor) PPAR(脂質・糖代謝を調節する受容体)作動薬 | 脂質代謝・インスリン抵抗性・炎症・線維化を同時に標的 | 実用化前の最終段階の大規模試験(第III相)を実施中 | 第IIb相1200 mg:NASH消失49% vs 22%、線維化改善48% vs 29%。体重増加・浮腫などに注意[16] |
| エフルキシフェルミン(efruxifermin) FGF21(糖・脂質代謝を調節する因子)アナログ | 代謝改善+抗炎症・抗線維化 | 実用化前の最終段階の大規模試験(第III相)を実施中 | HARMONY 96週:50 mg群の線維化改善49% vs 19%[17] |
| その他のFGF21系 ペゴザフェルミン(pegozafermin)など | 長時間作用型FGF21により代謝・線維化を標的 | 複数薬が実用化前の最終段階の大規模試験(第III相)へ | FGF21クラスはMASH消失と線維化改善の双方を狙う有力な開発領域[18] |
※臨床試験の段階:第II相は主に「効果が期待できるか、どの用量が適切か」を確認する段階、第III相は承認申請前に多数の人で有効性と安全性を確認する最終段階の大規模試験です。
8.世界の議論は「かかりつけ医をどう巻き込むか」へ
世界で進んでいるのは、専門医にすべてのMASLDを集約する仕組みではありません。欧州肝臓学会(EASL)は、MASLDの多くが非肝臓専門領域で診療されていることを前提に、FIB-4からエラストグラフィへ進む多段階の診療経路を推奨しています[2]。米国肝臓学会(AASLD)もFIB-4<1.3の低リスク例は身近なかかりつけ医療の場で継続管理し、糖尿病予備群・2型糖尿病や複数の代謝リスクをもつ人では1~2年ごとの再評価を提案しています[3]。
欧州で開発されたかかりつけ医療向けの診療手順のパイロット研究では、研修を受けたかかりつけ医でFIB-4評価が94.1%に実施され、減量介入や飲酒への介入も増加しました[19]。さらに2026年の多施設研究では「FIB-4≧1.3→VCTE(振動制御過渡エラストグラフィ)」という二段階経路が、通常診療に比べて進行線維化例の正しい紹介率を5.0倍に高めました[20]。電子カルテを使ってFIB-4異常者を自動抽出し、SWE(せん断波エラストグラフィ)や専門診療へつなぐ、かかりつけ医療での実装も報告されています[21]。
海外の方向性は「専門医を不要にする」ことではありません。
かかりつけ医が入口と継続管理を担い、必要に応じて管理栄養士、糖尿病・肥満症の診療医、肝臓専門医が加わり、役割分担しながら一緒に診る「共同管理(shared care)」を目指しています。
米国肝臓学会(AASLD)が示す多職種モデルでも、MASLDの多数はかかりつけ医療/内分泌・糖尿病診療の場に存在し、そこで心代謝併存疾患を最適化しながら初期リスク層別化を行い、肝臓専門医はより詳細な肝リスク評価と肝臓標的治療を担うと整理されています。栄養評価と継続的な食事支援は、肝臓専門外来を受診するかどうかにかかわらず必要とされています[22]。
早期MASLDを管理栄養士による保険栄養支援につなげにくい日本の制度は、この流れに逆行しています。
9.日本ではF2~F3まで進むと、今度は「施設の壁」が現れる
日本では2026年6月、セマグルチドが「肝硬変を伴わないMASH(中等度又は高度の線維化を有する場合)」に承認されました[11]。しかし最適使用推進ガイドラインでは、MASH/NASH診療に関連する肝臓専門医または消化器病専門医、心代謝リスクを診る内分泌・糖尿病・循環器系専門医が関与できる体制、関連学会の教育研修施設、常勤管理栄養士による栄養指導体制など、厳しい施設要件が設定されています[11]。
安全性確保と適正使用の必要性は当然です。しかし、糖尿病、肥満、高血圧、脂質異常症を日常的に診療し、FIB-4やSWEで線維化リスクを評価できる診療所であっても、「教育研修施設ではない」ことだけで薬物治療から外れ得る仕組みは、世界で進む「かかりつけ医と専門医の共同管理」の方向とは対照的です。
10.日本のMASLD診療にある「二重の断絶」
| 早期MASLD 線維化なし~軽度(F0~F1) | 食事・減量介入が最も重要な時期なのに、MASLD単独・BMI 30未満では管理栄養士による保険栄養支援へつなげにくい。 |
| 進行MASH 中等度~高度線維化(F2~F3) | 薬物治療が保険適用になる一方、最適使用推進ガイドラインの教育研修施設等の要件により、多くのかかりつけ医が治療に参加しにくい。 |
「脂肪肝を早く見つけましょう」と言いながら、早く見つけた段階では専門的栄養支援に診療報酬がつきにくく、重症化して薬が必要になると今度は施設要件で地域診療所が参加しにくい。
これは予防重視の医療制度として合理的でしょうか。
11.必要なのは「専門医か、かかりつけ医か」ではなく、役割分担
日本でも、次のような制度転換が必要だと考えます。
〇MASLDそのものを外来栄養食事指導の対象として明確化し、BMI 30未満でも肝脂肪化と心代謝リスクがあれば管理栄養士による早期介入を可能にする。
〇FIB-4を電子カルテで自動計算し、低リスクはかかりつけ医で管理、中間リスクはSWE(せん断波エラストグラフィ)/VCTE(振動制御過渡エラストグラフィ)、高リスクは専門医へ、という二段階・三段階の地域連携パスを標準化する。
〇MASH薬物療法を施設認定だけで囲い込むのではなく、研修・診療経験・専門医との連携体制を評価し、専門施設で治療を導入した後は、地域のかかりつけ医が継続管理を担い、必要時に専門医へ相談・再紹介できる共同管理方式を検討する。
〇体重、血糖、血圧、脂質、腎機能、肝線維化を別々に扱わず、心血管・腎・代謝疾患として多職種で一体管理する。
おわりに――「早く見つける」だけでは予防にならない
脂肪肝を見つける技術はすでにあります。 FIB-4も、SWE(せん断波エラストグラフィ)/VCTE(振動制御過渡エラストグラフィ)も、MRE(MRエラストグラフィ)もあります。F2~F3 MASHには組織学的改善を示す薬剤も登場しました。足りないのは、その間を切れ目なくつなぐ医療システムです。
世界では「どうすれば、より多くのかかりつけ医がMASLD診療に参加できるか」が議論されています。日本に必要なのも、かかりつけ医を「診療の蚊帳の外」に置く制度ではなく、かかりつけ医を入口と継続管理の中心に置き、管理栄養士、糖尿病・肥満症診療、肝臓専門医を必要に応じて結びつける制度です。
早期に脂肪肝を見つけても治療につながらず、重症化してからも治療薬へのアクセスが厳しく制限される――この不合理を是正することこそ、日本のMASLD診療に必要な改革ではないでしょうか。
参考文献・資料
[1] Younossi ZM, et al. The global epidemiology of NAFLD and NASH: a systematic review. Hepatology. 2023;77:1335-1347.
[2] EASL-EASD-EASO Clinical Practice Guidelines on MASLD. J Hepatol. 2024;81:492-542.
[3] Rinella ME, et al. AASLD Practice Guidance on the clinical assessment and management of NAFLD. Hepatology. 2023;77:1797-1835.
[4] Azuma K, et al. Higher liver fat content among Japanese in Japan compared with non-Hispanic whites in the United States. Metabolism. 2009;58:1200-1207.
[5] Vilar-Gomez E, et al. Weight Loss Through Lifestyle Modification Significantly Reduces Features of Nonalcoholic Steatohepatitis. Gastroenterology. 2015;149:367-378.e5.
[6] 厚生労働省. 令和8年度 外来栄養食事指導料に規定する特別食(別表第三).
[7] 厚生労働省. 肝臓食の定義(肝庇護食、肝炎食、肝硬変食、閉塞性黄疸食等).
[8] 厚生労働省. 令和8年度診療報酬改定 外来栄養食事指導料(BMI 30以上の高度肥満症治療食を含む).
[9] Sanyal AJ, et al. Phase 3 Trial of Semaglutide in Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.
[10] FDA. FDA Approves Treatment for Serious Liver Disease Known as MASH. 2025.
[11] 厚生労働省. セマグルチド最適使用推進ガイドライン(代謝機能障害関連脂肪肝炎). 2026年6月19日.
[12] FDA. Rezdiffra (resmetirom) approval for MASH with fibrosis. 2024.
[13] Tirzepatide for Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis with Liver Fibrosis. N Engl J Med. 2024;391:299-310.
[14] A Phase 2 Randomized Trial of Survodutide in MASH and Fibrosis. N Engl J Med. 2024;391:311-319.
[15] Survodutide LIVERAGE phase 3 trial (NCT06632444). ClinicalTrials.gov.
[16] A Randomized, Controlled Trial of the Pan-PPAR Agonist Lanifibranor in NASH. N Engl J Med. 2021;385:1547-1558.
[17] Noureddin M, et al. Efruxifermin in MASH (HARMONY): 96-week results. Lancet. 2025;406:719-730.
[18] Evidence-based clinical practice guidelines for MASLD 2026.
[19] Development and pilot evaluation of an evidence-based algorithm for MASLD management in primary care in Europe. 2024.
[20] Two-step care pathways for advanced MASLD in primary and hospital care: A multicenter study. 2026.
[21] Using Panel Management to Identify Adult Patients With High-Risk MASLD/MASH Fibrosis in a Primary Care Clinic. 2024.
[22] AASLD update: multidisciplinary approach to MASLD management.
(文責:医療法人寿里会すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)