少量でも体重が減る?~GLP-1の実臨床データから見えてきた「無理しない」治療の可能性~

図解:Murugadoss K, et al. Biology Methods and Protocols. 2026[1]をもとに作成
| <この記事のポイント> ● 通常は「開始時の量」とされる少ない量の処方記録が長期間続いていた人では、平均体重が減っていました。 ● ただし、すべての人に「少量で十分」と証明されたわけではありません。 ● 大切なのは、機械的に最大量を目指すのではなく、効果と負担のバランスをみながら、その人に合った量を考えることです。 |
GLP-1関連薬は、肥満症や2型糖尿病の治療を大きく変えています。これらの薬は通常、少ない量から始め、体の反応や吐き気などの症状を確認しながら少しずつ増量していきます。[1]
では、十分な効果を得るために、すべての人が決められた維持用量まで増量する必要があるのでしょうか。2026年、医学誌 Biology Methods and Protocols に、開始時の少ない量の処方記録が長期間続いていた人の体重変化を調べた実臨床研究が報告されました。[1]
今回の報告は、「最大量まで増やすこと」だけを目標にするのではなく、効果と負担をみながら、その人に合った量を考える治療について改めて考えるきっかけになります。
※チルゼパチドは正確にはGLP-1だけでなくGIPにも作用する「GIP/GLP-1受容体作動薬」です。本稿では一般の方向けに、セマグルチドとあわせて「GLP-1関連薬」と表記します。[1]
■「開始時の量」の処方記録が長期間続いていた人を調べた
研究では、米国の約2,900万人分の匿名化された電子診療情報を利用しました。低用量群は、セマグルチド0.25 mgまたはチルゼパチド2.5 mgという開始用量の処方記録が少なくとも3回あり、最初と最後の対象処方の間が6か月以上あった人として定義されました。[1]
この厳しい条件に該当したのは、セマグルチド814人、チルゼパチド1,016人でした。その後、年齢、性別、BMI、2型糖尿病の有無などをできるだけそろえて、534人ずつを比較しました。[1]
12か月後の平均体重変化率は、セマグルチドで約−2.2%、チルゼパチドで約−5.5%でした。つまり、開始時の少ない量でも、体重への作用がみられる人がいることが示唆されました。[1]
| 薬剤 | 研究でみた開始用量 | 12か月後の平均体重変化 |
| セマグルチド | 0.25 mg/週 | 約 −2.2% |
| チルゼパチド | 2.5 mg/週 | 約 −5.5% |
■体重はどのように変化した?

図1 開始用量の処方記録が長期間続いていた人における体重変化の推移
※体重推移は必要な体重データがそろった310人(各155人)を解析。出典:Murugadoss K, et al. Biology Methods and Protocols. 2026[1]をもとに日本語化。
図1では、3、6、9、12、15か月の各時点で、両群の平均体重が開始時から低下しています。チルゼパチド群では平均低下幅がより大きくみられましたが、この研究は無作為化試験ではないため、薬剤そのものの差だけで説明できるとは限りません。[1]
■少ない量でも、なぜ体重が減るのでしょう?
GLP-1は、もともと私たちの体内でつくられているホルモンで、食欲、胃の動き、インスリンやグルカゴンの分泌などを調節しています。[2]
体重減少の中心にあると考えられているのは、食欲が弱まり、自然に食べる量が減ることです。薬への反応には個人差があり、開始用量でも食事量が変わって体重減少につながる人がいると考えられます。[2]

| ①「食べたい」が弱くなる 脳の食欲を調節する場所に働き、空腹感を弱め、満腹感を高めます。自然に食事量が減ることがあります。[2] | ② 満腹感が長く続く 胃の動きをゆっくりにし、食べたものが胃から腸へ移動する速度を遅くします。とくに治療初期には満腹感が続きやすくなります。[2] |
| ③ 食後の血糖を整える 血糖が高いときにインスリンの分泌を助け、血糖を上げるグルカゴンの分泌を抑えます。[2] | ④ 食後の脂質にも作用する 食後に増える中性脂肪や腸由来の脂質粒子を抑える作用が報告されています。[3] |
ただし、血糖や脂質への作用そのものが体重減少の主な原因というより、食欲とエネルギー摂取量の低下を中心に、いくつもの作用が重なっていると考えるのが適切です。[2][3]
■だからといって「少量で十分」と証明されたわけではありません
今回の研究は、「開始時の量でも体重が減る人がいる」ことを示唆しましたが、「すべての人が少ない量のままでよい」ことを証明した研究ではありません。[1]
同じ論文の別解析では、セマグルチドの開始用量の処方記録が続いていた人と、高い用量まで増量した人を各753人ずつ比較したところ、12か月後の平均体重変化はそれぞれ−1.76%、−12.03%でした。より大きな減量が必要な人では、適切な増量に意味があることが示唆されます。[1]
| 経過 | 開始用量を継続した群 | 高用量まで増量した群 |
| 3か月 | −1.19% | −5.08% |
| 6か月 | −1.92% | −8.85% |
| 9か月 | −2.06% | −11.45% |
| 12か月 | −1.76% | −12.03% |
| 15か月 | −1.36% | −12.44% |
一方、同研究内のセマグルチド低用量群と高用量群の比較では、高用量群で吐き気や便秘の記録が多くみられました。ただし、これも観察研究なので、用量が直接の原因だと断定することはできません。[1]
■「無理しない」とは、「増量しない」という意味ではありません
このコラムでいう「無理しない治療」は、少ない量を使い続けること自体を目標にするという意味ではありません。
| 大切なのは、効果と続けやすさのバランスです ● 増量したときに吐き気や胃もたれなどの症状が強い場合には、増量の時期や用量について医師と相談しながら調整する。 ● 十分な効果が得られておらず、負担なく続けられる場合には、段階的な増量を検討する。 ● 目標とする減量幅、体重の変化、食欲、体調や負担感を確認しながら、その人に合った量を探す。 |
■当クリニックでは、一律に増量はしません
当クリニックでは、GLP-1関連薬を使用するときに、全員を同じペースで一律に増量することを目標にはしていません。診察では、体重の変化、食欲の変化、吐き気や便秘などの症状、そしてご本人の負担感や目指す減量幅を確認します。
現在の量で目標に近い効果が得られている場合や、増量による症状が気になる場合には、増量の時期や量を相談しながら調整します。反対に、十分な効果が得られておらず、負担なく治療を続けられている場合には、段階的な増量を検討します。
| 「最大量まで増やすこと」が治療のゴールではありません ● 大切なのは、その人が求める効果と負担感のバランスがとれた、続けやすい量を見つけることです。 |
■まとめ
今回の実臨床研究では、開始用量の処方記録が長期間続いていた人でも、12か月後に平均するとセマグルチドで約2.2%、チルゼパチドで約5.5%の体重減少がみられました。[1]
もちろん、少ない量ですべての人に十分な効果が得られるわけではありません。より大きな減量が必要で、負担なく続けられるなら増量を検討する。現在の量で効果が得られている、あるいは増量時の症状が気になるなら、その反応を確認しながら次の一手を考える。
| 「多いほどよい」「少ないほどよい」ではありません ● その人が求める効果が得られ、過度な負担なく続けられる量を医師と相談しながら見つけることが大切です。 ● 今回の研究は、一人ひとりに合わせたGLP-1治療について考えるきっかけとなる報告です。 |
■この研究を読むときの大切な注意点
今回の研究は、研究参加者を「低用量」と「高用量」に無作為に分けた臨床試験ではなく、実際の診療記録を後から解析した観察研究です。[1]
さらに、低用量群は「同じ開始用量の処方記録が少なくとも3回あり、最初と最後の対象処方の間が6か月以上」という条件で定義されました。研究データからは、実際に毎週その量を使っていたか、処方された薬を受け取っていたか、どの程度継続できていたか、なぜ増量しなかったかまでは完全には確認できません。[1]
また、対象者は他のGLP-1関連薬や一部の糖尿病薬・体重管理薬を使用していないなど、厳しい条件で選ばれた集団です。そのため、すべてのGLP-1関連薬使用者に同じ結果が当てはまるとは限りません。[1]
そのため、この研究は、意図的に少ない量を長く続ける治療法の有効性を証明したものではありません。著者らも、今後の前向き研究が必要だとしています。[1]
論文では薬剤間のさまざまな有害事象も探索されていますが、多数の項目を比較した結果であり、多重比較を補正すると個々の差は統計学的に有意ではありませんでした。年齢や健康状態、受診・記録のされ方などの背景差も完全には除けないため、本コラムでは安全性の優劣を論じず、体重変化を中心に紹介しています。[1]
■参考文献
[1] Murugadoss K, Venkatakrishnan AJ, Soundararajan V. Comparison of Cardiometabolic Benefits and Tolerability in Patients on Sustained Low Doses of Semaglutide or Tirzepatide. Biology Methods and Protocols. 2026; bpag048. doi:10.1093/biomethods/bpag048.
[2] Holst JJ. From the Discovery of GLP-1 to Today’s Diabetes/Obesity Therapy and Beyond. Biological Psychiatry. 2026. Advance online publication. doi:10.1016/j.biopsych.2026.04.010.
[3] Syed-Abdul Majid M, Lewis GF. Incretin-based therapies: Effects on plasma lipids and potential mechanisms. Pharmacology & Therapeutics. 2026;285:109057. doi:10.1016/j.pharmthera.2026.109057.
(文責:医療法人寿里会すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)