余暇 vs 仕事~身体活動パラドックスは認知症にも及ぶ?~
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「仕事でよく動いている」ことと「健康のために運動する」ことは同じなのでしょうか
| 「仕事で一日中、体を動かしているから運動不足ではない」――そう考えるのは自然です。 ところが、認知症リスクについては、身体活動の“量”だけでなく、“どの場面で行うか”が重要かもしれません。 |
■認知症より前に、心血管疾患や死亡リスクで知られていた「身体活動パラドックス」
「体を動かすことは健康に良い」―これは健康づくりの基本です。しかし以前から、余暇時間の運動と、仕事として行う身体活動では、心血管疾患や死亡との関連が反対方向になることがあると報告されてきました。これが「身体活動パラドックス」です。
代表的なのが、デンマークのコペンハーゲン一般住民研究です。20~100歳の10万4046人を約10年間追跡したところ、活動量が最も少ない群と比べ、余暇時間の身体活動が非常に多い群では、心筋梗塞や脳卒中などの主要な心血管イベントのリスクが15%低く(HR 0.85)、全死亡リスクは40%低くなっていました。ところが職業上の身体活動が非常に多い群では、主要な心血管イベントのリスクが35%高く(HR 1.35)、全死亡リスクも27%高いという、逆方向の関連が認められました[1]。
これは観察研究のため、肉体労働そのものが心血管疾患や死亡を増やすと証明したものではありません。それでも、年齢、喫煙、糖尿病、血圧、脂質、教育年数、所得など多くの要因を調整した後も、余暇と仕事で異なる関連が残りました[1]。つまり、「身体活動は、どの場面で行っても同じ健康効果をもつ」とは限らないことが、認知症研究より前から心血管疾患や死亡リスクについて示唆されていたのです。

図1 心血管疾患・死亡で以前から示されていた「身体活動パラドックス」
出典:Holtermann A, et al. Eur Heart J. 2021;42(15):1499-1511[1]。原著の結果をもとに再構成。
そして今回、Feterらが2026年に発表した大規模メタ解析では、同じ「余暇では低リスク、仕事では高リスク」という方向性が、認知症でもみられる可能性が示されました[2]。心血管疾患・死亡で知られてきた身体活動パラドックスが、脳の健康にも及ぶのか。本コラムでは、その結果と考えられる理由、日本の研究との違いを整理します。
■420万人超を解析すると、身体活動全体では認知症リスクが低い
Feterらのシステマティックレビュー・メタ解析には74研究、422万7297人が含まれ、追跡期間中央値は10年でした。身体活動量が多い人では、少ない人と比べて、全認知症の相対リスク(RR)は0.80、アルツハイマー病は0.79、血管性認知症は0.71でした。つまり、身体活動全体でみれば、それぞれ約20%、21%、29%低いという関連でした[2]。
ところが、身体活動を行う場面ごとに分けると結果は異なりました。余暇時間の身体活動は全認知症リスク24%低下(RR 0.76)と関連した一方、仕事中の身体活動は20%上昇(RR 1.20)、通勤時の身体活動は10%上昇(RR 1.10)と関連しました。家事は15%低下(RR 0.85)と関連しましたが、根拠となった研究は1件だけでした[2]。
ただし、ここは非常に重要です。仕事中の身体活動について解析できた研究は5件で、研究間のばらつきも大きく、各領域のエビデンスの確実性は「非常に低い~低い」と評価されています。したがって、「肉体労働をすると認知症になる」ことを示した研究ではありません[2]。
■“どれだけ動いたか”だけでは説明できない
原著の用量反応解析では、余暇時間の身体活動は認知症リスクと非線形の逆相関を示しました。活動量が増えるにつれてリスクは低下しますが、その後は低下幅が頭打ちになる形です。一方、仕事中の身体活動では、約200~3000 MET・分/週の範囲で活動量が増えるほど認知症リスクが高くなる傾向が示されました[2]。
MET・分/週とは、運動の強さ(MET)と行った時間を掛け合わせた「身体活動の量」の指標です。なお、余暇時間の解析では直線だけでなく、曲がった関係をとらえるスプライン(複数の区間を滑らかにつないで関係を推定する統計手法)も使われています。一方、仕事中の身体活動ではデータの区分が少なかったため、スプライン解析は行えませんでした[2]。

図2 余暇時間と仕事中では、身体活動量と認知症リスクの関係が異なる可能性
※図中の文献番号は各図内の「出典」に対応し、本文の文献番号とは別です。
■なぜ余暇時間の運動は有益なのでしょうか?
定期的な運動は、血圧、糖代謝、心肺機能などを改善し、心血管・代謝の健康維持に役立ちます。世界保健機関(WHO)は、身体活動によって心血管疾患、2型糖尿病、高血圧、認知機能、睡眠など幅広い健康上の利益が得られるとしています[3]。こうした血管・代謝リスクの改善は、血管性認知症だけでなく、アルツハイマー病を含む認知症予防を考えるうえでも重要です。
さらに余暇時間の活動は、単なる筋肉運動だけではありません。ウォーキングやスポーツでは、人と話す、道順を考える、新しい動きを覚える、判断するといった社会的・認知的刺激を伴うことがあります。215万人を超える人を含むメタ解析では、余暇時間の身体活動だけでなく、認知活動や社会活動も全認知症リスク低下と関連していました[4]。

図3 余暇時間の身体活動が脳の健康に結びつくと考えられる経路
※図中の文献番号は各図内の「出典」に対応し、本文の文献番号とは別です。
■では、なぜ仕事中の身体活動では同じ結果にならないのでしょうか?
仕事での身体活動は、自分のペースで行う運動とは性質が異なります。長時間の身体的負荷、同じ動作の反復、十分な回復時間の不足、重い物を持つ作業などが重なる場合があります。身体活動パラドックスの研究では、こうした長時間の負荷と回復不足が、余暇の運動とは異なる生理学的反応を生む可能性が指摘されています[5]。

図4身体活動パラドックスを説明する概念図
また、職種によっては粉じん、溶剤、一酸化炭素などへの曝露が重なることがあります。職業・生活環境上の曝露と脳小血管病を検討したシステマティックレビューでは、複数の化学物質や特殊環境と脳小血管病との関連が報告されています。ただし、これは特定の曝露集団の結果であり、一般の肉体労働者すべてに当てはまるわけではありません[6]。
心理社会的な環境も無視できません。2026年の研究では、仕事上の裁量が少ない職場では初期の認知機能が低く、感情的負担や仕事の要求度が高い職場では認知機能低下が速いという関連が報告されました[7]。反対に、考える、判断する、問題を解決するといった認知的刺激の多い仕事は、認知症リスク低下と関連しています[8]。
つまり、「仕事で身体を動かすこと自体が脳に悪い」のではなく、身体的負荷、回復、ストレス、職場環境、有害曝露、教育・社会経済的背景、認知的刺激などが一緒に含まれている可能性があります。観察研究では、これらを完全に切り分けることは困難です[2]。

図5 仕事中の身体活動と認知症リスクの関連を説明し得る要因と、日本の研究との相違
※図中の文献番号は各図内の「出典」に対応し、本文の文献番号とは別です。
■日本の研究では結果が一致していません
日本のMurakami Cohort Studyでは、40~74歳の地域住民を対象に、余暇時間の身体活動だけでなく、通勤・仕事・家事をまとめた「余暇以外の身体活動」についても、活動量が多いほど認知症リスクが低いという関連が報告されました[9]。これは2026年のメタ解析とは一部異なる結果です。国、職種、働き方、身体活動の測定方法、生活習慣、社会環境などによって結果が変わる可能性があります。
もう一つ、日本人4万3896人を対象としたJPHC研究も重要です。当初の解析では、総身体活動量、生活全体の中高強度身体活動、余暇時間の中高強度身体活動のいずれも、活動量が多いほど要介護認知症リスクが低いという関連がみられました。しかし、認知症診断前から活動量が低下していた可能性、つまり逆因果を考慮して早期発症例を除外していくと、総身体活動量と生活全体の中高強度身体活動の関連は次第に消失しました。一方、男性の余暇時間の中高強度身体活動では、9年間のラグを設けてもリスク低下との関連が残りました[10]。
この結果は、「身体活動が多ければ多いほどよい」と単純に考えるよりも、いつ、どのような状況で、どの程度の強さで身体を動かしているのかを考える必要があることを示しています。
■どのくらいの運動を目標にすればよいのでしょうか?
WHOの身体活動ガイドラインでは、成人に対して1週間あたり、中強度の有酸素運動150~300分、または高強度の有酸素運動75~150分、あるいはその組み合わせが推奨されています[3]。
運動強度は難しい数字で考えなくても、「会話」でおおよその目安をつけられます。中強度とは、会話はできるけれど歌うのは難しい程度。高強度では、数語は話せても、息継ぎなしに会話を続けるのは難しい程度です[11]。速歩などは中強度、ジョギング、ランニング、速いサイクリング、水泳、縄跳び、ミット打ちなどフィットネスとしてのボクシングは高強度になることがあります[11][12]。同じ運動でも体力や行い方によって感じる強さは異なります。
■ただし、「強ければ強いほどよい」わけではありません
UK Biobankを用いた研究では、中高強度身体活動の総量が同程度でも、その一部に高強度運動を含む人では、認知症リスクがさらに低い可能性が示されました[13]。ただし観察研究であり、誰もが高強度運動を行うべきだと証明したものではありません。
長い間、余暇時間に運動する習慣がなかった方では、中強度以上の運動を一定時間続けること自体が難しくなっている場合も珍しくありません。特に高齢の方、心血管疾患のある方、関節や筋骨格系に問題のある方、転倒リスクの高い方などでは、いきなり強度の高い運動を始めることで、けがや身体への過度な負担につながることがあります。WHOも、能力や健康状態に応じて身体活動を行うことを勧めています[3]。
現在の研究では、認知症リスク低下との関連が比較的はっきりしているのは、主として余暇時間に行う中強度~高強度の身体活動です。一方、軽い身体活動だけでどの程度認知症リスクを下げられるのかについては、まだ十分に分かっていません。だからといって、最初から速歩やジョギングを無理に行う必要はありません。
運動習慣のない方では、まず十分な睡眠を含めて生活リズムを整えながら、散歩やゆっくりしたウォーキングなど、無理なく続けられる軽い身体活動から始めることが大切です。体力がついてきたら、少しずつ歩く時間や速度を増やし、可能であれば「会話はできるけれど、歌うのは難しい」中強度へ近づけていくのが現実的です[11]。
■仕事とは別に「自分のために動く時間」を
今回の研究から、「仕事で一日中体を動かしているから、それで認知症予防には十分」とは言い切れません。一方で、「仕事で体を動かすと認知症になる」と結論づけることもできません。現在のエビデンスは観察研究が中心で、仕事の身体活動に関する確実性は低く、結果が一致しない日本の研究もあります[2][9]。
| 大切なのは、最初から理想的な運動量を達成することではありません。 仕事とは別に、自分のために身体を動かす時間を少しずつ取り戻し、無理のない範囲で軽い運動から中強度の運動へ近づけていくことです。 |
■参考文献
[1] Holtermann A, Schnohr P, Nordestgaard BG, Marott JL. The physical activity paradox in cardiovascular disease and all-cause mortality: the contemporary Copenhagen General Population Study with 104,046 adults. Eur Heart J. 2021;42(15):1499-1511. doi:10.1093/eurheartj/ehab087.
[2] Feter N, Iso-Markku P, Markarian T, et al. Domain-specific physical activity levels and risk of dementia: a systematic review and meta-analysis. Lancet Public Health. 2026;11(9):e650-e664. doi:10.1016/S2468-2667(26)00142-8.
[3] World Health Organization. WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour. Geneva: WHO; 2020.
[4] Su S, Shi L, Zheng Y, et al. Leisure Activities and the Risk of Dementia: A Systematic Review and Meta-analysis. Neurology. 2022;99(15):e1651-e1663. doi:10.1212/WNL.0000000000200929.
[5] Holtermann A, Krause N, van der Beek AJ, Straker L. The physical activity paradox: six reasons why occupational physical activity does not confer the cardiovascular health benefits that leisure time physical activity does. Br J Sports Med. 2018;52(3):149-150. doi:10.1136/bjsports-2017-097965.
[6] Clancy U, Cheng Y, Brara A, Doubal FN, Wardlaw JM. Occupational and domestic exposure associations with cerebral small vessel disease and vascular dementia: A systematic review and meta-analysis. Alzheimers Dement. 2024;20:3021-3033. doi:10.1002/alz.13647.
[7] Walters ME, Scambray KA, Palms JD, et al. Multidimensional workplace stressors differentially impact cognitive trajectories. Alzheimers Dement. 2026;22(8):e71733. doi:10.1002/alz.71733.
[8] Kivimäki M, Walker KA, Pentti J, et al. Cognitive stimulation in the workplace, plasma proteins, and risk of dementia: three analyses of population cohort studies. BMJ. 2021;374:n1804. doi:10.1136/bmj.n1804.
[9] Kitamura K, Watanabe Y, Kabasawa K, et al. Leisure-Time and Non-Leisure-Time Physical Activities are Dose-Dependently Associated With a Reduced Risk of Dementia in Community-Dwelling People Aged 40-74 Years: The Murakami Cohort Study. J Am Med Dir Assoc. 2022;23(7):1197-1204.e4. doi:10.1016/j.jamda.2022.01.053.
[10] Ihira H, Sawada N, Inoue M, et al. Association Between Physical Activity and Risk of Disabling Dementia in Japan. JAMA Netw Open. 2022;5(3):e224590. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.4590.
[11] Centers for Disease Control and Prevention. How to Measure Physical Activity Intensity. Physical Activity Basics. Updated Dec 4, 2025.
[12] Herrmann SD, Willis EA, Ainsworth BE, et al. 2024 Adult Compendium of Physical Activities: A third update of the energy costs of human activities. J Sport Health Sci. 2024. Compendium online activity tables.
[13] Brellenthin AG, Lee DC, Lefferts EC, et al. Physical Activity Intensity and Risk of Dementia. Am J Prev Med. 2024;66(6):948-956. doi:10.1016/j.amepre.2024.01.015.
(文責:医療法人寿里会すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)