新国際コンセンサスが示す、2型糖尿病のある人に禁煙が「治療の一部」となった理由~「助言」からの脱却、その根拠とは?~
糖尿病の診療では、血糖、血圧、コレステロール、腎機能などを細かく確認します。一方、喫煙については「できれば禁煙しましょう」という短い助言で終わってしまうことも少なくありません。2026年に発表されたDiaSmokeFree Working Groupの国際コンセンサスは、この位置づけを一段進めました。禁煙を一般的な生活習慣への「助言」ではなく、2型糖尿病の診療に組み込むべき「治療の一部」と位置づけ、薬物療法、行動支援、再喫煙の予防、禁煙後の血糖・体重などの変化の確認まで含めた具体的な道筋を示しています。[1]
ここでいう「治療の一部」とは、本人に禁煙を強制するという意味ではありません。ニコチン依存を「意志の弱さ」の問題として片づけず、医療側が「治療可能な課題」として支援し、禁煙後の血糖や体重の変化まで継続して見ていく、という意味です。
なお、本コラムが2型糖尿病のある人に焦点を当てているのは、今回発表された国際コンセンサスが2型糖尿病を対象としているためです。これは、2型糖尿病のない人に対する禁煙の重要性を否定するものではありません。本コラムは、新たなコンセンサスの発表を機に、その内容と意義を紹介し、禁煙支援への理解を深めることを目的としています。

■なぜ、2型糖尿病では喫煙を軽く扱えないのか
喫煙と糖尿病は、それぞれが心臓や血管の病気のリスクを高めます。そして両者が重なると、リスクはさらに大きくなります。2015年にCirculation誌に発表された89件の前向き研究をまとめた解析(メタ解析)では、糖尿病のある喫煙者は非喫煙者と比べ、全死亡リスクが55%、心血管疾患が44%、冠動脈疾患が51%、脳卒中が54%高く、末梢動脈疾患のリスクは2.15倍でした。[2]
<糖尿病のある人:現在喫煙者と非喫煙者の相対リスク>
| 転帰 | 相対リスク | 増加の目安 |
| 全死亡 | 1.55 | 55%増 |
| 心血管疾患 | 1.44 | 44%増 |
| 冠動脈疾患 | 1.51 | 51%増 |
| 脳卒中 | 1.54 | 54%増 |
| 末梢動脈疾患(下肢切断の原因のひとつ) | 2.15 | 約2.15倍 |
出典:Panら 2015[2]
■「糖尿病+喫煙」は、糖尿病のない非喫煙者と比べてどのくらい危険か
フィンランドの約5.9万人を追跡した研究では、「糖尿病なし・非喫煙」を基準にすると、2型糖尿病があり喫煙している人の冠動脈疾患による死亡リスクは、男性で6.15倍、女性で6.92倍でした。2型糖尿病があっても喫煙していない人では、男性2.62倍、女性4.06倍でした。これは「糖尿病があるとタバコ1本の害が必ず何倍にもなる」と証明した数字ではありませんが、糖尿病と喫煙という2つのリスクが重なる人の総合的な危険度が非常に高いことを示しています。[3]

心血管疾患だけでなく、がん死亡についても、日本人のデータがあります。Tanno-Sobetsu Studyでは、日本人男性794人を最大13年間追跡し、2型糖尿病の有無と喫煙状況(非喫煙・過去喫煙・現在喫煙)によって6群に分け、全がん死亡を比較しました。「糖尿病なし・非喫煙」を1.00とすると、年齢、BMI、飲酒、総コレステロールなどを調整した全がん死亡のハザード比は、糖尿病なし・過去喫煙2.36、糖尿病なし・現在喫煙4.89、2型糖尿病あり・非喫煙2.54、2型糖尿病あり・過去喫煙7.88、2型糖尿病あり・現在喫煙10.61でした。最も高かったのは「2型糖尿病あり・現在喫煙」の群でした。[13]
ただし、2型糖尿病のある各群は15~29人と少数で、推定値の幅(95%信頼区間)も広いため、「10.61倍」という数字をそのまますべての人に当てはめることはできません。また、2型糖尿病と喫煙の組み合わせそのものが統計学的な「相乗効果」を示したと証明されたわけでもありません。それでも、両者が重なった群で全がん死亡リスクが最も高かったことは、喫煙を心血管疾患だけでなく、がんの面からも重要なリスクとして考える必要があることを示しています。[13]

日本でも、すでに日本循環器学会・日本糖尿病学会の合同ステートメントは、糖尿病のある人で喫煙が心血管疾患の重要なリスク因子であり、体重増加を懸念しても禁煙を優先すべきだとしています。[4]したがって、2026年の新指針が初めて禁煙の重要性を指摘したわけではありません。新しい点は、禁煙を「勧める」だけでなく、どのように治療し、どのように追跡するかまで具体化したことです。
■「禁煙してください」だけでは不十分―治療すれば成功率は上がる
2型糖尿病のある成人300人を対象とした無作為化比較試験では、禁煙補助薬バレニクリン(チャンピックス®)とカウンセリングを組み合わせた群で、9~24週の持続禁煙率は24.0%でした。プラセボとカウンセリングの群では6.0%でした。さらに9~52週、つまり約1年にわたる持続禁煙率も18.7%対5.3%と、バレニクリン群で高い結果でした。なお、この試験は、30日以内に禁煙する意思があり、禁煙プログラムへの参加を希望した人を対象としています。[5]

2025年に18研究をまとめた系統的レビュー・メタ解析では、禁煙薬物療法は12週と24週の持続禁煙を明らかに増やし、52週でもバレニクリンはプラセボより有効でした。これらの結果を踏まえ、2026年の国際コンセンサスでは、現時点で2型糖尿病において強く推奨できる禁煙薬としてバレニクリンが位置づけられています。[1][6]
なお、高齢者では年齢そのものより腎機能の確認が重要です。高齢者を対象とした薬物動態研究では、年齢のみを理由とした用量調整は不要とされました。[10]一方、高齢者に限定した禁煙薬物療法の研究は少なく、バレニクリンについても直接的な有効性データは限られます。[11]したがって、後期高齢者では腎機能や併存疾患を確認しながら、一人ひとりに使用を判断します。
大切なのは、「禁煙できるかどうかは本人の意志次第」と考えないことです。ニコチン依存には薬物療法と行動支援という治療手段があり、両者を組み合わせて成功率を高めることができます。
バレニクリン(チャンピックス®)を使った12週間の標準的な禁煙治療は、健康保険3割負担の場合、自己負担は約1万5,000円が目安です。これは1箱600円のタバコなら約25箱、約500本分に相当します。1日1箱吸う人では、およそ25日分のタバコ代です。[12]
一方、12週間タバコを1日1箱吸い続けると、タバコ代は約5万円になります。禁煙治療は「費用がかかる治療」というより、長い目でみればタバコ代そのものを減らすための投資とも考えられます(※)。
※2026年6月の診療・調剤報酬、2026年4月の薬価をもとにした概算です。自己負担額は処方内容や医療機関・薬局などにより異なります。
■喫煙は、なぜ2型糖尿病の発症・悪化に関わるのか?

たばこの煙には7,000種類以上の化学物質が含まれ、その中には発がん性のある物質や健康に有害な物質が多数あります。これらは炎症を強めたり、インスリンをつくる膵β細胞の働きを低下させたり、ホルモンバランスを乱したりすることで、2型糖尿病の発症や悪化に関わると考えられています。[1]
具体的には、炎症性サイトカインの増加、インスリン分泌の低下、さらにインスリン抵抗性や代謝調節異常を通じて、血糖コントロールを悪化させる方向に働きます。[1]
つまり喫煙は、心血管疾患のリスクを高めるだけでなく、2型糖尿病そのものの成り立ちや悪化にも深く関わっている可能性があります。[1]
■禁煙したら血糖はすぐ良くなる?―一時的に悪化することも
禁煙には大きな長期的利益がありますが、血糖が直ちに改善するとは限りません。英国の2型糖尿病のある喫煙者10,692人を調べた研究では、1年以上禁煙を継続した人で、禁煙後1年以内にHbA1cが平均0.21ポイント上昇しました。その後は徐々に低下し、約3年で喫煙を続けた人と同程度になりました。この一時的なHbA1c上昇は、体重増加だけでは説明できませんでした。[7]
だからこそ、「禁煙したのだから、あとは大丈夫」ではありません。禁煙後しばらくは、血糖、HbA1c、体重、血圧などをいつも以上に注意して確認し、必要に応じて糖尿病治療を調整することが大切です。新しい国際コンセンサスが禁煙後のモニタリングまで含めているのは、このためです。[1]
■それでも、禁煙による長期的な利益は大きい
禁煙後に体重が増えたり、血糖が一時的に悪化したりする可能性があっても、禁煙そのものの長期的な利益が失われるわけではありません。米国のNurses’ Health StudyとHealth Professionals Follow-Up Studyから2型糖尿病のある人を解析した研究では、6年以上禁煙を続けた人は喫煙を続けた人に比べ、心血管疾患の発症リスクが28%低い結果でした(ハザード比0.72)。また、禁煙後の体重増加は心血管疾患リスクの低下を一部弱める可能性がある一方、死亡リスクを下げるという禁煙の利益は、体重変化にかかわらず認められました。[8]

つまり、「禁煙すると太るかもしれないから、今はやめない方がよい」と考える必要はありません。大切なのは、禁煙を進めながら、同時に体重や血糖の変化も支援することです。
■禁煙後は薬の効き方も変わる?―新しい視点だが、慎重な解釈が必要
今回の国際コンセンサスが注目したもう一つの点が、タバコ煙と薬剤の相互作用です。タバコ煙に含まれる一部の化学物質は、肝臓で薬を分解する酵素や、体内で薬を運ぶ仕組みに影響します。禁煙によってこの影響が弱まると、一部の薬の効き方が変わる可能性があります。ピオグリタゾン、ダパグリフロジン、カナグリフロジンなどについて、喫煙による薬の体内動態の変化が検討されています。[1][9]
ただし、これは「禁煙したらこれらの薬を自動的に減量する」という意味ではありません。糖尿病治療薬と喫煙・禁煙との相互作用を直接調べた臨床研究はまだ限られており、2024年に関連研究を幅広く調べたレビューでも、十分な研究がないことが指摘されています。禁煙時には薬剤全体を見直し、血糖や副作用を確認しながら一人ひとりに合わせて調整する、というのが現時点での実践的な理解です。[9]
■2026年の新指針で、糖尿病診療はどう変わるのか
DiaSmokeFree Working Groupは、13か国35人の医師や研究者などで構成され、研究の質を確かめながら、専門家が繰り返し話し合って推奨をまとめました。中心メッセージは、2型糖尿病があり喫煙している人には、禁煙開始から再喫煙の予防までを糖尿病診療に組み込み、一人ひとりに合わせた継続的な支援を行うことが重要だということです。[1]
- 喫煙状況を定期的に確認し、必要に応じて禁煙支援につなげる。
- 「やめましょう」と伝えるだけでなく、本人の準備状況に合わせて行動支援を行う。
- 適応を確認したうえで禁煙補助薬を活用し、薬物療法とカウンセリングを組み合わせる。
- 禁煙後早期から血糖、HbA1c、血圧、体重、副作用などを確認する。
- 再喫煙を「失敗」と決めつけず、再び支援につなげる。[1]
■「治療の一部」とは、本人を責めないことでもある
禁煙を糖尿病治療の一部にすることは、喫煙している人に責任を押しつけることではありません。むしろ逆です。ニコチン依存を治療可能な状態として捉え、医療者が「やめるべきです」と言うだけで終わらず、薬物療法、カウンセリング、体重管理、血糖管理、再喫煙予防まで支えることです。
糖尿病診療では、血糖や血圧に対して治療を行い、その後も効果や副作用を継続して確認します。喫煙についても、「本人の努力」だけに任せるのではなく、糖尿病治療の一部として支援する必要があります。2026年の新指針が示した変化は、禁煙の重要性そのものが新しく発見されたことではなく、禁煙支援をより具体的で継続的な「治療」として実践する必要性が明確になったことにあります。[1]
■まとめ
2型糖尿病のある人にとって、禁煙は「できれば行う生活改善」ではなく、心臓・脳・血管を守るための重要な治療目標です。重要なのは、本人に禁煙の成功を強いることではなく、医療側が禁煙を治療の一部として扱い、薬物療法と行動支援を提供し、禁煙後の血糖・体重・薬剤の変化まで継続して支えることです。
■参考文献
[1] Walicka M, Russo C, Ceriello A, et al. International consensus recommendations for smoking cessation in type 2 diabetes from the DiaSmokeFree Working group. Diabetes Res Clin Pract. 2026;113528. doi:10.1016/j.diabres.2026.113528.
[2] Pan A, Wang Y, Talaei M, Hu FB. Relation of Smoking With Total Mortality and Cardiovascular Events Among Patients With Diabetes Mellitus: A Meta-Analysis and Systematic Review. Circulation. 2015;132:1795-1804. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.115.017926.
[3] Barengo NC, Teuschl Y, Moltchanov V, et al. Coronary heart disease incidence and mortality, and all-cause mortality among diabetic and non-diabetic people according to their smoking behavior in Finland. Tob Induc Dis. 2017;15:12. doi:10.1186/s12971-017-0113-3.
[4] Araki E, Tanaka A, Inagaki N, et al. Diagnosis, Prevention, and Treatment of Cardiovascular Diseases in People With Type 2 Diabetes and Prediabetes: A Consensus Statement Jointly From the Japanese Circulation Society and the Japan Diabetes Society. Circ J. 2021;85:82-125. doi:10.1253/circj.CJ-20-0865.
[5] Russo C, Walicka M, Caponnetto P, et al. Efficacy and Safety of Varenicline for Smoking Cessation in Patients With Type 2 Diabetes: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2022;5:e2217709. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.17709.
[6] Martin A, La Rosa GRM, Rice H, et al. Pharmacological interventions for smoking cessation in Type 2 diabetes: A systematic review with meta-analysis and GRADE evaluation. Diabetes Res Clin Pract. 2025;224:112202. doi:10.1016/j.diabres.2025.112202.
[7] Lycett D, Nichols L, Ryan R, et al. The association between smoking cessation and glycaemic control in patients with type 2 diabetes: a THIN database cohort study. Lancet Diabetes Endocrinol. 2015;3:423-430. doi:10.1016/S2213-8587(15)00082-0.
[8] Liu G, Hu Y, Zong G, et al. Smoking cessation and weight change in relation to cardiovascular disease incidence and mortality in people with type 2 diabetes: a population-based cohort study. Lancet Diabetes Endocrinol. 2020;8:125-133. doi:10.1016/S2213-8587(19)30413-9.
[9] Bellanca CM, Augello E, Di Benedetto G, et al. A web-based scoping review assessing the influence of smoking and smoking cessation on antidiabetic drug metabolism: implications for medication efficacy. Front Pharmacol. 2024;15:1406860. doi:10.3389/fphar.2024.1406860.
[10] Burstein AH, Fullerton T, Clark DJ, Faessel HM. Pharmacokinetics, safety, and tolerability after single and multiple oral doses of varenicline in elderly smokers. J Clin Pharmacol. 2006;46:1234-1240. doi:10.1177/0091270006291837.
[11] Cawkwell PB, Blaum C, Sherman SE. Pharmacological Smoking Cessation Therapies in Older Adults: A Review of the Evidence. Drugs Aging. 2015;32:443-451. doi:10.1007/s40266-015-0274-9.
[12] ファイザー株式会社. 保険診療による禁煙治療:禁煙補助薬の選択(チャンピックス). 2026年の診療・調剤報酬および薬価に基づく費用例.
[13] Ohnishi H, Saitoh S, Akasaka H, et al. Combination of type 2 diabetes and smoking increases total cancer mortality in Japanese men using competing risk analysis: the Tanno-Sobetsu study. Diabetol Int. 2015;7(2):167-172. doi:10.1007/s13340-015-0232-0.
(文責:医療法人寿里会すぎもと内科・糖尿病内科クリニック杉本一博)